セールスパーソンとアナウンサー。
その共通点は、言葉を使って相手とコミュニケーションをはかり、一瞬にして信頼を得ること。ただ、伝える相手との距離感、時間軸、表現方法……どんな工夫をすれば信頼を勝ち取れるのか?
営業本を軸に数々のベストセラーを出してきた和田裕美氏と、元NHKキャスターで現在スピーチコンサルタントとして活躍中の矢野香氏が初めて対談!
言葉を武器に仕事をしてきた2人が考える、相手から信頼されるコミュニケーション術を初公開する。(構成・鈴木雅光)
「脇役に徹する」ことが大事な理由
作家・営業コンサルタント。外資系教育会社での営業時代、プレゼンしたお客様の98%から契約をもらうという「ファン作り」営業スタイルを構築し、日本でトップ、世界142ヵ国中2位の成績を収めた女性営業のカリスマにして先駆者。短期間に昇進を重ね、女性初、最年少で2万人に1人しかたどりつけないと言われる支社長となる。 その後独立し、執筆活動の他、営業・コミュニケーション・モチベーションアップのための講演、セミナーを国内外で展開。 雑誌、テレビ、ラジオなどでのメデイア紹介多数。女性ビジネス本の先駆けとなり、多くの人の啓発活動を中心に活躍中。『世界No.2セールスウーマンの「売れる営業」に変わる本』『2015 W's Diary 和田裕美の営業手帳2015』(以上、ダイヤモンド社)、『和田裕美の人に好かれる話し方』(大和書房)、『失敗してよかった!』(ポプラ社)など著書多数。
矢野 アナウンスの仕事を初めて3年経った頃でした。上司から「原稿を読んだり、話したりすることはできているが、相手の話を聞けていない」と言われたことがあります。頭の中で番組進行のことばかり考えていて、インタビューのときにゲストから何も引き出せていない、ということを指摘されたのです。
和田 それ、なんとなくわかります。営業現場でもそうなのですが、自分が伝えたいこと、つまり、売りたいという気持ちが前に出すぎて、相手のニーズとか、全然聞き出せないまま突っ走ってしまうことってあるんです。「営業とは自分を売ること」とよく言われるのですが、売るのは「商品」であり、それを求めるのは「お客様」です。自分を高く売る必要などないのです。だから自分は脇役に徹するほうがいいと思っています。そして、相手がどうやったら輝くかを考えます。つまり、自分は「聞き役」になるということ。心から相手に興味を持つことで、中身を掘り下げることができ、かつ相手が面白がってくれるようになります。
矢野 「脇役になれ」というのは、NHKでもよく言われました。インタビュー相手は、有名人・著名人だけとは限りません。町の声として地元に住んでいらっしゃる方にお話を伺うことも多いものです。そんなときに、聞き手であるアナウンサーが自分のことばかり話したら、どちらが主役かがわからなくなってしまいます。
和田 それはそうですよね。自分よりも相手の人が楽しくなるように心がけることが大事です。
スピーチコンサルタント。信頼を勝ち取る「正統派スピーチ」指導の第一人者。 NHKキャスター歴17年。おもにニュース報道番組を担当し、番組視聴率20%超えを記録した実績を持つ。 大学院では、心理学の見地から「話をする人の印象形成」を研究し、修士号取得。 現在は、国立大学の教員としてスピーチ研究を続けながら、政治家、経営者、上級管理職、ビジネスパーソン、学生などに「信頼を勝ち取るスキル」を伝授。 相手に与える印象の分析・改善力に定評があり、話し方・表情・動作を総合的に指導。全国から研修・講演依頼があとをたたない。 著書に、ベストセラーとなった『その話し方では軽すぎます!――エグゼクティブが鍛えている「人前で話す技法」』(すばる舎)などがある。 【著者オフィシャルサイトはこちら】
会話の主導権を取るには?
和田 ただ、聞いているだけで、すべて受け身になってはダメなんです。たとえば、お客様とせっかくお会いしたのに、開口一番、「5分しかないからね」と言われてしまい、オドオドして本当に5分であたふたと帰ってしまえば、それは相手にコントロールされた会話です。相手を尊重するのは大事なのですが、相手に主導権を取られたままでは、自分の(売るという)目的が達成しないわけです。話が中途半端になるほうが失礼になることもあるので、こちらからどんどん質問して、相手のニーズを探っていけば、おのずと相手も興味を持ってくれます。よほど動かせない予定が入っていない限り、相手が「まあ、10分、20分おしてもいいか」と思ってくれます。そうなってようやく、自分がイニシアティブを取っていることになるのです。
矢野 会話の主導権を取れるようにするためのコツは何ですか。
和田 そうですね。それは無邪気になることです。
矢野 それはどういう意味でしょう?
和田 相手から気に入られようという気持ちが強すぎて、うまくいかないことって多いですよね。だからこそ、子どものように無邪気になってさらっと遠慮のない質問を投げかけてみることも必要なんです。相手にとって予想外の展開をつくる。あまりにも予定調和の会話だと、相手の印象に残りません。強く印象に残れば、次の営業にもつながっていくんです。