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【第11回】 2015年7月21日
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ちきりん

イノベーションを生むための
「ブレイク・ザ・バイアス」
【特別対談】濱口秀司×ちきりん(5)

「思考する」ということはここまで奥深い! ちきりんさんが感嘆し続けた、ビジネスデザイナー・濱口秀司さんとの対談連載もついに最終回。イノベーションの鍵となる「バイアス」について、そのつかみ方・壊し方までを具体的に語ってくれました。(構成/崎谷実穂 写真/疋田千里)

未来は「ほんの小さなところ」からやってくる

ちきりん 濱口さんは、数十年後には人間を超える人工知能が出てくるという「シンギュラリティ(技術的特異点)」という話については、どう思います?

濱口秀司(はまぐち・ひでし)京都大学卒業後、松下電工(現パナソニッック)に入社。全社戦略投資案件の意思決定分析担当となる。1994年、日本初、企業内イントラネットを高須賀宣氏(サイボウズ創業者)とともに考案・構築。1998年から米国のデザインコンサルティング会社、Zibaに参画。1999年世界初のUSBフラッシュメモリのコンセプトをつくり、その後数々のイノベーションをリード。パナソニック電工米国研究所、ソフトウエアベンチャーを経て、2009年に戦略ディレクターとしてZibaにリジョイン。その後Zibaのエグゼクティブフェローを務めながら、自身の実験会社「monogoto」をポートランドに立ち上げ、ビジネスデザイン分野にフォーカスして活動を行っている。ドイツRedDotデザイン賞審査員。

濱口秀司(以下、濱口) まあ、千年後とかには出てくるんじゃないでしょうか。

ちきりん すごい先ですね(笑)。50年、100年以内に出てくるよという予測については、それはないだろうと思われるんですね?

濱口 未来予測というのは当たらないものなんですよ。ぼくが子どものころに描いた未来の絵なんか、何ひとつ実現していません。空中のチューブの中を走る車とか、ボタンひとつで夕飯をつくってくれる調理器具とか。でも、その絵のなかで1点だけ、ちょっとおもしろいことになっている部分がありました。友だちと遠くにいても「応答、応答」って話せる機械を描いてたんです。

ちきりん おお、それはスマホですね。

濱口 一対一だけでなく、世界中の人に連絡がとれるし、動画まで見られるんですよ。これは何を意味しているかというと、未来は一気に実現しなくて、ある1点の割れ目が広がっていくものだ、ということです。

ちきりん その割れ目というのが、車でも調理器具でもなくスマートフォン、情報通信の部分だったと。

濱口 それがぼくの未来観。全体ですごいものではなく、「もしかするとこれかも?」というちっちゃいものが、将来大きな割れ目になるかもしれない。そう思いながらぼくはコンセプト作りの仕事をしているんです。だから、シンギュラリティもいつか訪れるだろうけれど、みんなが思っているようなかたちでは起きないんじゃないかと思っています。

ちきりん なるほど、みんなが「これがシンギュラリティの始まりだ」と気づかないような小さなことから、なにかがじわじわと社会に広がっていく可能性があると。

濱口 未来のプロダクトについて考えましょう、みたいなプロジェクトって世界中で行われているんですけど、たいてい失敗するんですよね。それはちゃんと理由があります。例えば、3年後のロボットを、ビジネスとして考えるとしましょう。そうしたときに、基本的にはロボットの性能は右肩上がりに上がっていくと考えますよね。

ちきりん ええ、そりゃそうです。

濱口 そしてなぜかみんな、かなり先の未来のビジョンを思い描いてから、そこから巻き戻して3年後を考えるんですよ。MBAとかで教えられているのかな。

ちきりん どうかな。大きなビジョンをまず描かないと、考えが小さくまとまってしまうと思うのかな。

濱口 でも、来年のロボットと、再来年のロボットの性能の差は言えるかもしれないけれど、2030年のロボットと2031年のロボットの差なんてわからないでしょう。つまり、未来になるにつれて分解度が低くなるんです。で、分解して考えられないと、みんな同じような手がかりを元に考えようとするんです。例えば、アイザック・アシモフのロボット工学三原則。意識的に考える人も無意識で考える人もいますが。

ちきりん 人間に危害を加えてはならない、人間の命令に従わなくてはならない、ロボットは自らの存在を守らなくてはならない、というやつですね。

濱口 つまり、ロボットは人間を助ける存在だというバイアスにとらわれて考え始めます。そうすると、どの会社が考えても、みんな似たようなアイデアしか出てきません。これはきっとIDEOで考えても、ダイヤモンド社で考えても、一緒だと思います。

ちきりん その時点ですでに、イノベーションが生まれる感じがしないんですね(笑)。

濱口 そのよく似たアイデアをベースに3年後のロボットを考えるとたくさんの制約条件があるためにさらに似通ったアイデアになる。社内でそれを発表すると「それ見たことある」「他社との差別化はどうするの」というツッコミを浴びる(笑) 99%の未来の企画はそんな感じになっています。

「ロボットが人間を助ける」というバイアスを崩した商品

濱口 ここで、バイアス論がわかっているかどうかが鍵になる。つまり、バイアスをつかんで、壊せたら、画期的なアイデアが生まれるんです。ここでいうバイアスは、「ロボットが人間を助ける」だとすると、矢印を逆にして「人間がロボットを助ける」にしてみる。それ、じつは昔すでに開発されていたんです。ほら、犬の……。

ちきりん ソニーのAIBOとか!

濱口 AIBOはかなりクレバーな製品だったんですよ。これは自分たちがもっているバイアスと逆向きの矢印だから、「おもしろい!」と思います。新商品としてのアテンションやフックになる。企画者としては、この企画を出したら、まあ50点ですね。

ちきりん えっ、それでも50点だけ?

濱口 でも未来はやってきます。だから、いったんバイアス論でひねりを加えたものをどう理想の未来に繋げていくか描いて、初めて100点です。AIBOチームは、そこまでのロードマップが描けなかった。自分たちで、この製品の本質が見抜けていなかったのでしょう。だからAIBO2代目でセンサーと制御が高度化したり、3代目では簡素化しキュートになったりブレたんだと思います。AIBOは、人間が使役することでロボットが何かを返してくれるという相互依存のコンセプトが肝なんです。高度な技術なんかいらない。それがわかっていたら、今頃きっと老人ホームにたくさんAIBOが導入されていたはずです。

ちきりん 確かに。そして、このバイアスを壊すというのが、濱口さんが提唱されているイノベーションを生むための「ブレイク・ザ・バイアス」という考え方なんですね。

濱口 はい。ぼくは画期的な商品を設計するときは、かならずバイアスモデルをつくって、それを破壊する方向でユニークな1歩を設計します。

ちきりん 具体的には、どうやってバイアスを壊すんですか?

濱口 方法はいろいろあるのですが、1つは情報が少ない状態で考え始めることですね。

ちきりん それ、よくわかります。世の中には、考えるためには情報が多いほうがいいと信じてて、ずうっっっと情報ばっかり集めてる人も多いんですよね。

濱口 情報をたくさん集めてしまうことは、イノベーティブなものが生まれない罠にもなりうるんですよ。プロジェクトを進めるときの情報収集について、ダイヤグラムで解説しましょう。縦軸が情報量、横軸が時間の経過です。「これだけ情報があれば、完璧な解を出せる」という情報量を仮に100とします。でも、ぼくたちはすべての情報を手に入れられるわけじゃないので、どうしたって100にはたどり着かない。そこで、「a」のあたりで止まるんです。まあでも、みんな100を目指して情報収集を始めます。

濱口 ぼくがZiba Designに参加したとき、プロジェクトの初日にいきなり「ぼく、答えあります! この案どうですか?」と提案しました。そうしたら、みんな「早すぎる、いまプロジェクト始まったばかりだ」と言うんです。それで、次に調査が始まって2日目の夕方に、「はいはい! じゃあ、この案どうですか?」と提案したら、また「まだ調査が終わってなくて、ブリーフィングもしてないし、インサイトもまとまってないだろ」と言われました。これは何を意味しているかというと、「アイデアを考え始めるには、ある程度の情報が必要」だと彼らが思っているということです。

ちきりん それが「b」地点の情報量なんですね。 

90:10の法則

濱口 そうです。そして、「c」のタイミングになったら、シンキングタイムスタートだと思っている。でも、これって謎のチャートなんです。だって、100の情報量ってどこなのかもわからないし、そうなると「a」も「b」も不明です。じゃあ考え始めるべきタイミングの「c」って何? 誰もわからないんですよ。

ちきりん それなのに多くの人は、「ある程度、情報を集めないと考えられないはずだ」と信じ込んでいる。思考の質は、情報量に依存すると思ってるというか。だから情報を集め続ける。

濱口 でも、不思議なことに、最終的には提案資料がちゃんとできています。それはなにかというと、1週間前の法則というものがありまして……。

ちきりん そろそろまとめないとまずいぞ、と。落としどころ発想ですよね(笑)。

濱口 業界によっては2週間前のところもあるかもしれませんね。必要は発明の母、締切は発明の父とも言いますから、締切は重要です。でも、この時点で2つの問題があるんです。1つ目は、この時点で情報量がむちゃくちゃ大きくなってしまっていること。これを整理して答えをだすのは、至難の業です。

ちきりん しかもその中には、必要じゃない情報まで大量に含まれてしまってるから。

濱口 そしてさらに大きな問題は、それを無理やり整理しようとすることで、よく知っているフレームワークを用いてしまうことです。例えばSWOT分析とか、マイケル・ポーターの競争戦略とかね。そんな既成のバイアスにまみれたものを使って、新しい発想が出るわけないんです。

ちきりん そーかー。情報を集め過ぎてしまうことで、お手軽なフレームワークを遣わざるを得なくなるんですね。それでは益々イノベーションから遠ざかってしまいそう。

濱口 じゃあどうするのかというと、先ほど言ったように、ぼくは情報収集をする前に考え始めます。例えば、ぼくがFedExのブランド回復のプロジェクトを担当したとき、最初はもらった資料を読み込まないで考え始めました。FedExの売りである「一夜配達」とはなんなのか。ハブ&スポークと呼ばれる輸送システムはどんなパターンがあるのか。そもそもFedEx、フェデラルエクスプレスという名前は何を意味しているのか。

ちきりん ごく少ない情報だけで、根本的なことから考え始めるんですね。

濱口 この根本にあるバイアスを壊すように考えるんです。そして、その日の夕方に必ず答えを出します。

ちきりん なるほど。そしてその後で、答えをどんどん刷新していく。

濱口 その通りです。次の日に情報が入ることで、新しいアイデアが出てきたらそれを採用すればいい。そうして、毎日答えをつくっていくのがぼくのやり方です。そうしていると、大抵、ぼくが思いつくすごいアイデアの90%は、プロジェクトが開始して10%の期間に集中して出てきていることがわかりました。10週間のプロジェクトなら、開始1週間以内に思いついている。これを、90:10の法則と呼んでいます。

ちきりん 9割も!

濱口 あくまで9割の話で、ぎりぎりまで粘って良いアイデアが出ることも、もちろんあるのですが。

プロジェクト初日にすごいアイデアを出せるわけ

ちきりん なぜ大抵の場合、最初のほうにいいアイデアが出てくるんだろう? 理由があるんでしょうか?

濱口 1つは、先ほどちきりんさんがおっしゃったように、むちゃくちゃ当たり前の原理原則を考えるからです。細かいことを分析するよりも、「一夜配達って何か」みたいなことを考えるほうが正直大変です。でもここで、世の中で当然とされている先入観を壊すことができたら、とても大きなインパクトを出せるんです。そして、もう1つは情報がないほうがイマジネーションがわくからです。白黒写真とカラー写真でどっちがイマジネーションがわきますか、と聞くと人は「白黒写真」と答えます。それは、色を脳内で補完するから。

ちきりん 映画とその原作小説の関係もそうですね。想像力がある人の場合、たいてい小説のほうがよかったと感じます。映像化の技術がなしえないことでも、脳内なら想像できるから。つまり、想像力のある人にとっては、最初に与えられる情報は少なければ少ないほど楽しいんです。

濱口 つまり情報が欠損しているほうが、イマジネーションがわきやすいんです。後半になればなるほど、情報量が増えて、イマジネーションの余地がなくなります。だからこそ、前半で突き詰めて考えれば、いいものが生まれる確率が高い。

ちきりん なんか、ものすごい論理的ですね。びっくりです。それと人は、目の前の情報が多くなればなるほど、“作業”に逃げることができるでしょ。情報さえあれば、それを分類したり、整理・分析したりといった作業が無尽蔵につくり出せるから。しかも、「やれば終わる」作業は、「やっても成果が出ないかもしれない」思考より圧倒的にラクです。そして最悪なことに、それを続けていると、いつしか作業を思考だと思い込み始める。そういう、作業に逃げがちな人、あるいは組織を、思考側に振り戻す方法論もあるんでしょうか?

濱口 できると思いますよ。頭を使って考えている状態は、論理と直感を行き来するストラクチャード・ケイオスの状態とも言えますが、それを意図的につくりだすことはできます。例えば、ぼくはメンバーがたくさんの資料を広げてうーんと考えていたら、「今から3分で1枚にまとめてプレゼンしろ」と言うんです。

ちきりん 時間を与えないことで、思考方法が変わるんですね!?

濱口 そうすると、論理的に考えていても絶対無理なので、思考が直感のほうに飛ぶんです。そうして、本質的に単純化することができる。論理思考の企業内でそういった暴力的な要求はあまりないですよね(笑)。そして、単純化したものを集めて、また論理的に考えさせる。そういうサジェストはできますよ。

ちきりん 思考せずにとにかくインプット(情報)を増やさなくちゃ、と考える人にとっては、インプットで得た情報を作業的にまとめただけのものが、アウトプットなのかもしれない。

濱口 そういう資料はよくありますね。

ちきりん そうならないように、『自分のアタマで考えよう』では、今まで10時間作業をしていたなら、そのうち1時間でも無理やり(作業ではなく)思考に使うべし、と書いたんです。新しい情報を入れず、整理もせず、考えることだけに1時間を使う。純粋に考える時間って、1日30分もないって人がたくさんいるんで。

濱口 それはいいですね。ぼくがプロジェクトのプロセスを管理するときは、必ず数量管理をするんですよ。このとき、定性管理をしちゃダメなんです。例えば最初にモデルを考えて、次にそれをもとにアイデアを考えるとする。すると人は、モデルの質が高かったら、アイデアを考え始めようとします。でもその質の高さって、どう判断するんですか? そこから出てきたアイデアの良し悪しは、何で測るんです?

ちきりん 直接的には計れない。

濱口 だから、数量管理がいいんです。たとえば、論理的思考に1時間使ったとしたら、徹底的に直感で1時間考える。そこで出てきたモデルを採用するんです。

ちきりん そういう“考えるための側面支援”って、濱口さんみたいに思考法に精通した人がやらないとダメなんでしょうか? それとも、何もわかっていない人が無邪気に質問することなどによっても、他の人の思考が促進される、みたいなことは起こりますか?

濱口 どっちでもいいと思いますよ。そもそも、どんな人もけっこう頭の使い方が未開拓なんです。思考モードを意図的に切り替えたことのある人なんて、ほとんどいないでしょう。

ちきりん だから素人が何気なく発した言葉からでも、思考のモード転換が起こって、みんなの思考がレベルアップすることもあり得るんですね。だったら、みんなもっと積極的に発言すればいい。「おかしな発言」こそ価値がある、そういう場合だってあるって思えばいいですね。
 私自身、今回うかがったお話だけでも、すごくたくさんのヒントを手に入れました。こんな対談ができるなんて、ブログを書いてて本当によかったです。お忙しいところ、ありがとうございました!


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ちきりん

関西出身。バブル期に証券会社に就職。その後、米国での大学院留学、外資系企業勤務を経て2011年から文筆活動に専念。 2005年開設の社会派ブログ「Chikirinの日記」は、日本有数のアクセスと読者数を誇る。 シリーズ累計23万部のベストセラー『自分のアタマで考えよう』『マーケット感覚を身につけよう』(ダイヤモンド社)、『「自分メディア」はこう作る! 』(文藝春秋)など著書多数。

 


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