皆さんは商品やサービスを購入するとき、購入前に「疑問」を感じることはありますか? 今回は、その疑問から生まれたセールストークのエピソードを2つ紹介します。疑問とは、購入に躊躇している障害でもあるので、いち早く聞き出すことも大事ですが、疑問を予測して、セールストークの材料とするほうが、消費者の気持ちは高まるのです。
7月17日発売『セールスは1分で決まる!』連載第6回。

疑問を最大のセールスポイントに変える

お客様に何を伝えるべきなのか?

 お客様に商品を説明するときに気をつけることは、自分が疑問を持ったまま話をしないことです。商品に対して疑問を持っていると、それがささいなことであっても、必ずお客様に伝わります。

 営業マンが疑問を持った商品は買ってもらえません。私は、少しでも疑問に思ったことは、徹底的に調べました。

 あるとき、すごく変な臭いの商品が発売になりました。

「これ、すごくくさいよね。お客様に説明するとき、香りの話には触れないで」
と、先輩に言われました。

 にもかかわらず、私は第一声で、「皆さん、こんにちは。今日はめちゃくちゃくさい商品を持ってきましたよ! 日本のメーカーなら絶対作りません。ビックリですよ!」 と言いました。

 皆さん、「えっ?」という顔をします。

「生まれて初めてこんな変な臭いの化粧品を使いました。倒れそうになりましたよ」と笑い、そこから商品の話を始めました。

 いくら日本とは香りの好みが違うといっても、この臭いをフランス人が好きとは思えない。

「何か理由があるはず」と調べていくと、商品に配合されている植物エキスに独特の臭いがあることが分かりました。

「でもね、この商品を使い続けたら肌がこんなに引き締まってきたんですよ。その秘密は、あるくさい植物なんです。いや〜、『良薬口に苦し』と言いますが、『良薬鼻にも苦し』ですね。あまりにも肌がきれいになってきたので、だんだんこの臭いを我慢できるようになりましたよ」

 いつもは、商品説明しながら商品をお客様に手に取っていただくのですが、このときはあえて、それをしませんでした。

 すべての説明が終わり、こう言いました。

「では、このくさいクリームを使ってみたいという勇気のある方は手を挙げてください!」

 全員手を挙げました。

「どれくらいくさいのか、かいでみたい!」 と盛り上がってきたので、商品を回しました。

「本当にくさ〜い」「私、鼻が曲がるかと思いましたよ」「言うほど、くさくないよ」「私はこの臭い平気〜〜」「くさいけど、引き締まるなら我慢できる」など、楽しいコメントが飛び交います。

 もし、私が商品の良いところだけ一方的に話して、香りのことにまったく触れず、最後にお客様が商品を手に取ったら、「何? この臭い、くさい。これじゃ使えないよ」となっていたはずです。

 つまり私は、お客様に第一優先で「臭いの価値」を伝えたのです。

 私がお客様なら、「えっ、このクリームどうしてこんなにくさいんだろう?」ということを一番に思うからです。お客様は商品の良いところだけを知りたいわけではないのです。このクリームは、「すごくくさいけど、すごくいいよ」「この臭いに効果があるの」と、臭いが話題になり人気商品になりました。

 こんなこともありました。1万円以上もする男性用香水を発売したときのことです。今は若い人でも香水を使う人が増えてきましたが、当時日本では香水の需要はとても少なくあまり売れませんでした。まして男性用香水だったので、さらに厳しい状況でした。

「う〜ん、高いし男性用だし、どう話せばいいかなぁ」

 商品を見ると、そのガラス瓶の形がとても不思議なことに気がつきました。

「これ、何て書いてあるんだろう」
「ミノタウロス? 何のことなんだろう?」

 家に帰って調べると、「ギリシャ神話に出てくる半分牛で半分人間の生き物。牛頭人身の怪物」と書いてありました。

「なぜ、高価な香水に怪物?」

 こうなると、気になって仕方ありません。図書館に行き、「ギリシャ神話」の本を探して読みました。ミノタウロスの話は決して美しい話ではなく、どちらかというとショッキングな内容でした。

「うーん、きれいなイメージで売るべき香水なのに」といろいろ調べていくうちに、「画家のパブロ・ピカソがミノタウロスに非常に興味を持っていた」ということを突き止めました。

 この香水は、デザイナーであるピカソの娘が作ったものだったのです。

 そこから、ピカソと娘の関係を調べ、ピカソがなぜミノタウロスに興味を持ったのかを調べました。

 商品紹介のときは、ほとんどピカソとその娘の話をしました。香水にくわしくない方々も、あの有名なピカソは知っています。

「へぇ、ピカソの娘さんが作ったのね」
「ミノタウロスはギリシャ神話に出てくるんですよ。なんと、牛の頭と人間の身体を持っているんです。心はどっちだったと思います?」

 などと質問をすると、皆さんいろいろな想像をして、たくさんの意見が出てきます。

「さて、そんな理解できないミノタウロスの香りって、どんな香りだと思いますか?」と、想像してもらいます。

「牛の香りだったらいらないよ、宮崎さん」
「そうですよね。牛の香りだったら買わなくていいですよ。私も欲しくないし!」

 ここまでで、お客様は「どんな香りなんだろう? かいでみたい」という気持ちが高まっています。

 そして、皆さんに商品を回します。香りというのは、一番好き嫌いの個人差が出るのでとても難しいのです。

「わ、強い香りですね」「何か、ダンディな香りがする」「クセがあります」などいろいろな感想が出ます。

「牛のたくましさと人間の優しさと知的さが融合したような香りでしょ!」
 とまとめると、
「そうそう、そんな感じ!」
「あっ、これ皆さんが使うものじゃないですよ。男性用なので。たくましくて優しい男性におすすめしていただく香水です!」
「うちの主人にたくましくなってもらいたいので買います」
「そうですね。男性は自分で香水を買いませんので、これは男性へのプレゼント用に女性が選ぶといいですね」

 この香水は、1万円以上もする高額にもかかわらず、ピカソの娘が作ったという価値感を見いだし、クリスマスやバレンタインデー、父の日によく売れました。

 疑問に思ったことを、そのままにしないで必死で調べたら、案外そこにセールストークとなるエッセンス(本質)が眠っていることが多いのです。

POINT

自分が疑問に思うことは、お客様にとっても同じ。
疑問をセールスポイントに変えることで、
お客様の商品に対する価値は瞬時に上がります。