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ゼロ秒思考[行動編]
【第2回】 2016年1月20日
著者・コラム紹介バックナンバー
赤羽雄二

即断即決、即実行を実現する
「全体観」と2つのツール

「やるべきことはわかっているのに、なかなか動けない」「どうしてもグズグズしてしまう」という悩みを持つ人は多いだろう。そうした悩みを解決するために、10万人超の熱狂的ファンを生み出した『ゼロ秒思考』の著者がまとめたのが『ゼロ秒思考・行動編』だ。今回は同書より、「即断即決、即実行」を実現する1つのヒントと2つのツールの概要する。

 「全体観」とは何か

 前回は、「即断即決、即実行」を妨げる心理ブロックを思いつく限り挙げて整理した。『ゼロ秒思考』のメモ書きなどで解決できるはずのものもあったが、「わかっていても動けない」のように解決が難しいものもあった。今回は、そうした心理ブロックをほぼ全て解決し、即断即決、即実行に近づける、1つのヒントを紹介したい。

 結論から言うと、即断即決、即実行ができない根本的な理由は、対象への正しい「全体観」を持てていないことだと考えている。逆に、「全体観」さえ持てれば、あとは必要なときに、自然と即断即決、即実行ができるようになる。

 「全体観」という言葉の意味するところを、いきなり理解してもらうのは難しいかもしれない。

 たとえば、夜に真っ暗な道で前がほとんど見えないのに、自転車で高速で走るのはとても危険だ。しかし、ライトをつければある程度安心して走ることができる。さらに、街灯がついていて、一本道で数十メートル先まで見通せるようなときは、かなりのスピードで走っても安全だし、怖いと思うこともない。

 進行方向に大きな陥没がないこと、空き缶が散乱していないこと、車が横道から突然飛び出してきたりしないことなどがわかっているのが、全体観を持った状況と言える。

 全体を見渡すことができれば安心して前に進むことができるが、見渡せなければ怖くて一歩も動けなくなってしまう。本人の性格がどうか、役割がどうかといった問題ではなく、全体観の有無が、行動できるかどうかを決定する要因になるということだ。

 違う説明の仕方をすると、正しい全体観を持つとは、自分が取り組む仕事や課題の全ての道筋やプロセスが見えており、どこが重要なポイントかを理解していることだ。どのような問題が起きそうで、それがどのくらい深刻かもしっかりと認識している。道筋やプロセスがどのように選択肢として分かれるのか、それがどのように変化するのかということもつかめている。部分ではなく、一面ではなく、空間的に、時間的に全体が見渡せている。

 「そんなことができるのか?」と思うかもしれないが、皆さんは日々そうした場面に接している。

 たとえば、アパレルショップに服を買いに行ったとき、ベテランの店員さんとやり取りをするとしよう。その際に店員さんはあなたからの質問や要望に対して、多くの場合、まさに即断即決、即実行という感じで、答え、動いてくれるはずだ。できる人なら、さらにうまいタイミングで、手に取った服を買いたくなるようなひと言をそえてくれるだろう。

 このとき、経験を積んだ店員さんには、あなたがどのような質問をし、要望を出すのか、それにどう答え、どう動くべきか、何が問題になる可能性があるのか、ほとんど見えている。接客、販売という仕事への全体観を持っている。

 なぜ、多くの店員さんにこういうことができるのか。それはアパレルや飲食店のような店頭での接客業は、商品がすぐそばにあり、顧客とのやりとりもその場で短い時間で完結する、全体観を持ちやすい仕事だからだ(もちろんアパレルや飲食業の裏側には全体観をつかみにくい複雑な業務があるし、接客の場面でも、新人店員は全体観を持っていないのでトラブルを起こしやすい)。

 あなたの仕事でも、事務やプレゼンなどの一部に限れば、その全体観が見えており、即断即決、即実行ができると言えるものがあるはずだ。『ゼロ秒思考[行動編]』は、そうした全体観を持てる範囲を広げる方法を解説するものになる。

 ちなみに、「わかっていても動けない」という状態のときは、やるべきことをやらないと、どのようなことが起こるのか、本当の意味ではわかっていないのではないだろうか。やらないことのリスクを過小に見積もっているのではないだろうか。安全な道だと思い込み、油断して走っているが、実は横から出てくる車が見えていないのではないか。

 お客からの要望に、「わかっていても動けない」という店員はいない。やるべきこと、やらなければならないことの正しい「全体観」を持てれば、「わかっていても動けない」ということもなくなるはずなのだ。

リーダーに不可欠な全体観

 全体観を持つことは、即断即決、即実行を可能にするが、それ以外のメリットからも、特に組織のリーダーには欠かせない能力となっている。

 全体観を持てば、おっかなびっくりではなく、一定の確信のうえで判断できるようになる。表面的な業務の流れだけでなく人間関係を含めた全体を見ているので、部分最適の解にとらわれることなく、ベストな案を選択できる。失敗も少ない。当然、検証の手間も短縮され、成果を出すまでのスピードも大いに上がる。

 こうなると余計なストレスが生じないので、精神的な疲れもはるかに少なくて済む。エネルギーの大半を本当に大切なことに振り向けることができる。力を抜いてもよいところがわかっているのでいつも余力があり、後でトラブルが発生しても確実に対応できる。

 こうした全体観と、そこから生まれる精神的な余裕はリーダーとして非常に重要な条件だが、果たしてどれくらいの人が備えているだろうか。

 企業としては、広い全体観を持つリーダーを育てることが、最も重要な事項といえる。全体観があるリーダーでなければ即断即決、即実行ができず、他社に大きく遅れを取ることになる。そういうリーダーが存在しない組織は、当面の成果も出せない。世界の複雑さが増し、成長が難しくなりつつある経済状況下では、将来の環境変化に対応できず、生き残ることすら難しくなっていく。

 リーダーは、リーダーとして他人に頼られる経験をするなかでさらに成長するものだから、会社はできる限り早期に、少しでも全体観を持つ人間、持てそうな人間を見出し、経験を積ませる必要がある。当然、社員も少しでも全体観を持とうと努力をしなければならない。

 昔から、社員にいくつもの部署を経験させようとする会社があるが、全体観を身につけるという点では意味があることだと思える。

全体観を持てる人が備えているもの

 といっても、人によって全体観を持つことが得意な人と、比較的苦手な人がいるようだ。

 得意な人は、シンプルに言えば、自分に自信がある人だ。研鑽と努力を重ね、全体観に近づいた結果として自信のある人もいるが、生まれながらのような、根拠のない自信を持つ人もいる。根拠がないからといって、決して悪いわけではない。度を過ぎなければ、どんなときでも実力を発揮できる、誰の前でも萎縮することがないといった余裕に繋がって、全体観の基盤になる。余裕がある人には包容力があり、多くの人がその人のために尽くしたいと集まってくる。

 また、全体観に繋がる、より具体的なレベルの能力としては、「仮説構築力」「情報収集力」「観察力」「洞察力」などがあると考えている。全体観を持っている人は、レベルにバラつきがあるにしろこれらの能力を備えている。自分が今どこにいて、どういう状況か? 目の前が、全体がどうなっているか? 仮説を立てつつ情報を収集し、偏見を持たずに観察し、見えないところも読み通すことで、全体を見渡すことができる。

『ゼロ秒思考[行動編]』は、全体観を身につけ、即断即決、即実行できるようになってもらうためのものだから、そうした能力も必然的に底上げされることになる。

全体観を持つための2つのトレーニング

 即断即決、即実行ができるようになるためには、全体観が必要だということはわかった。全体観の効能もわかった。では、全体観はどのようにして身につければよいのだろうか。

 自転車で道路を走るのであれば、目を開けていればたいていのものがはっきり見える。注意さえしておけば、歩行者の飛び出しを避けることもそれほど難しくない。道路に大きな陥没があったとしても、普通は何メートルも手前で気づくことができる。

 しかし仕事になると、目を開けていれば見えるわけではない。意識的に全体観を持つ工夫が必要になる。複雑な仕事になるほど、利害関係者やメンバーの数が増えるほど、何らかの意識改革と訓練が必要になる。

 これまで、上司や先輩に「仕事ができるようになるにはどうすればよいでしょうか?」という疑問を投げても、「経験を積めば徐々にわかるようになる」とか、「失敗を1つ2つしないと一人前にならない」という答えしかもらってこなかった方がほとんどだと思う。しかし私は、その疑問に、「全体観を持つこと。そして即断即決、即実行できるようになること」だと答えたい。しかもそれを、無用な失敗の痛手なく実現できる効果的なトレーニングがある。

 それが、「オプション」と「フレームワーク」だ。詳細な解説は『ゼロ秒思考[行動編]』に譲るが、ここではその概要をごく簡単に説明しよう。

「オプション」とは何か

 「オプション」とは、取り得る施策を複数挙げ、比較し評価する思考法を指す。思考法というと身構えてしまうかもしれないが、紙一枚に書き出せる非常に簡単なものだ。『ゼロ秒思考』のメモ書きと同様に気軽に考えてもらってよい。ちなみに「オプション」という言葉は「選択」や「選択肢」を意味する。

 「オプション」は、日常生活での選択からビジネスでの重大な決定まで、我々が何かを決める際には必ず使えるツールだ。
たとえば「年末年始の過ごし方」を考えてみることにしよう。

 ◎自宅でのんびり過ごす
 ◎実家に帰る
 ◎ホテルで過ごす

 などの選択肢をすぐに思いつくだろう。それを下図のようにしてみる。これが「オプション」の最もシンプルな形だ。

 「オプション」は、自己流の形で、すでに日常生活で実行している人もいる。しかし徹底することはあまりない。仕事でも日常生活でも、「オプション」での思考を素早くできるようにしておくと、「最善を尽くせたのか?」という後悔やストレスが驚くほど減り、生産性の大幅な向上が体感できるようになる。これが、全体観の養成につながり、即断即決、即実行のベースとなる。

「フレームワーク」とは何か

 「フレームワーク」とは、物事を整理する枠組のことで、一番簡単で手軽なものは2x2の枠組になる。

 たとえば、溜まってしまった仕事の優先順位を整理する際に、やみくもにリストアップするのではなく、まず2x2の枠組に整理してみる。整理のしかたはいろいろあるが、仕事の優先順位なので、縦軸を「緊急度」、横軸を「重要度」で切り分けてみよう。

 縦軸は「大」か「中」かどうか、横軸も「大」か「中」かどうかと分けることで、4つの場合に分類して全体を見ることになる。それが下の図だ。


 「フレームワーク」はこれ以外にも、問題点を切り分けたり、お客様をタイプ別に分類したり、新たな解決策を整理したりと、さまざまな場面で活用できるので、大変に便利だ。

 仕事でも日常生活でも、「フレームワーク」での分類を素早くできるようにしておくと、やはりストレスが減り、生産性の大幅な向上が体感できるようになる。これが即断即決、即実行のベースとなる。

「オプション」「フレームワーク」と全体観

 すでに気づかれているかもしれないが、「オプション」と「フレームワーク」は、それぞれ単体でも、即断即決、即実行のためのツールとして使うことができる。何か問題が起きたときに、「オプション」と「フレームワーク」を適切に使えるというだけで、判断も行動も他の人より格段に速くなるだろう。

 しかし同時に、「オプション」と「フレームワーク」を使うことは、あなたの全体観を育て、さらにレベルの高い即断即決、即実行へ導くトレーニングにもなる。

 「オプション」は、言うなれば、自分自身が取り得る選択肢の深掘りだ。対象となる問題を把握し、どのような選択肢が可能なのかを瞬時にリストアップしなければならない。そして同時に、取り得るそれぞれの選択肢が、自分にとってどのような意味や効果を持つのかを正確に理解しなければならない。

 その繰り返しは、自分に何ができるのかという客観的な評価や、自分の価値観などを明確にしていく。自分の能力も内面も、全体観の一部になっていく。

 「フレームワーク」も同様だ。意義のある「フレームワーク」を作成する際には、対象となるものの部分だけを見るのではなく、常に全体を見て、そのうえでまた部分を見るという意識の切り替えが必要になる。その習慣が身につくということは、全体観を持つということとほぼイコールだ。

 マッキンゼーをはじめとするコンサルティングファームの出身者には、比較的、即断即決、即実行をできる人が多い印象だが、それには、彼らがこの2つのツールに慣れているということが大きいと思える。決して地頭がよいから、即断即決、即実行ができるというわけではないのだ。
 

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赤羽雄二(あかば・ゆうじ) 

東京大学工学部を1978年に卒業後、小松製作所で建設現場用ダンプトラックの設計・開発に携わる。1983年よりスタンフォード大学大学院に留学し、機械工学修士、修士上級課程を修了。1986年、マッキンゼーに入社。経営戦略の立案と実行支援、新組織の設計と導入、マーケティング、新事業立ち上げなど多数のプロジェクトをリード。1990年にはマッキンゼーソウルオフィスをゼロから立ち上げ、120名強に成長させる原動力となるとともに、韓国企業、特にLGグループの世界的な躍進を支えた。2002年、「日本発の世界的ベンチャー」を1社でも多く生み出すことを使命としてブレークスルーパートナーズ株式会社を共同創業。最近は、大企業の経営改革、経営人材育成、新事業創出、オープンイノベーションにも積極的に取り組んでいる。著書に『ゼロ秒思考』『速さは全てを解決する』(ダイヤモンド社)、『マンガでわかる! マッキンゼー式ロジカルシンキング』(宝島社)などがある。

 


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累計21万部突破のシリーズ最新作であり、「即断即決、即実行」を実現するシンプルなトレーニング法を解説した『ゼロ秒思考[行動編]』。
そのポイントである「即断即決、即実行を妨げる心理ブロック」や、「全体観」という概念を一部紹介する。

「ゼロ秒思考[行動編]」

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