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飲食店を救う「ITサービス」ガイド
【第1回】 2016年3月29日
著者・コラム紹介バックナンバー
中村 仁

飲食業界がブラック化するのは
ITの恩恵を受けていないから

飲食店の関係者が、今ひしひしと感じていること、それは「飲食業のIT化」です。かつて「飲食に関するIT」と言えば、「ぐるなび」や「食べログ」などの集客サービスくらいでしたが、今では予約や会計、仕入れなど、飲食店の主要な業務のほぼ全てで、いくつものITサービスが乱立するようになりました。しかしまだ多くの飲食店にとって、その効果は半信半疑だし、数あるサービスから何を選べばよいのか分かりにくい状況です。
そこでこの新連載では、飲食店の予約/顧客台帳サービスとしてNo.1のシェアを誇る株式会社トレタの代表・中村仁氏に、お勧めのITサービスを選び、解説してもらいます。パナソニック、外資系広告代理店を経て、複数の繁盛店を開業してきた中村氏は、飲食業界とITをめぐる現状をどのように見ているのでしょうか。(執筆協力:谷山宏典)

外食産業の“ワクワクしない未来”

 『飲食店を救う「ITサービス」ガイド』という連載の開始にあたり、まず、なぜこうした情報が必要なのかを知っていただく必要があるでしょう。そのために、まず、日本の飲食業界を取り巻く現状からお話しましょう。

 率直に言って、日本の飲食業界は極めて厳しい状況にあります。

 市場規模を見ると、1997年の29兆円をピークに下がり続けて、現在はおよそ2割減の23~24兆円。今後は、少子高齢化などに伴って外食産業はさらに落ち込み、2020年には良くて横ばい、最悪のシナリオではここからさらに1~2割縮小するという予測が出ています。市場が縮小傾向にあれば、当然競争は激化します。一方、就業人口の減少によって、人手不足が深刻化していきます。縮小する市場の中で生き残るには優れた人材が不可欠ですが、労働力は売り手市場となり、一定数の従業員を確保すること自体が困難なうえに、コストもかかります。

「市場縮小」「競争激化」「人手不足」――この3点がこれから先、日本の飲食業界が直面する“ワクワクしない未来”なのです。

 これまで日本の飲食店の大部分は、人手をたくさん確保して、彼らに懸命に働いてもらうことで、何とか困難な状況を乗り越えてきました。しかし近い将来、そうした経営手法も通用しなくなるはずです。さらに言えば、2020年を待たずして、すでに現時点でさまざまなほころびが現れはじめています。

 たとえば、昨今、飲食業界でも「ブラック企業」と呼ばれる会社がいくつも出ています。彼らを擁護するわけではありませんが、どの会社もブラック企業になりたいと思って、従業員に過酷な労働を強いているわけではないと、私は考えています。深刻な人手不足と縮小する市場の中で「何とか利益を上げよう」「会社を維持しよう」「いいお店を作ろう」と必死に行動した結果、ブラック化してしまったのではないでしょうか。

 つまり、飲食店のブラック化には、その会社や店舗自体の問題もありますが、それ以上に飲食業界の構造的な問題が大きく関与しているのです。

「飲食店IT化元年」を迎えた2つの理由

 こんな話をすると、飲食業に関わる方々は悲観的な気分になるかもしれません。とはいえ、打つ手がないわけではありません。飲食店が生き残るための武器――それがこの連載のテーマである「ITサービス」なのです。

 昨年2015年を、私は「飲食店IT化元年」と位置付けています。それには2つの理由があります。

 ひとつは、IT化のための「ツール」「インフラ」「リテラシー」が出揃ったこと。具体的には次のようになります。

ツール……スマートフォンやタブレット端末などスマートデバイスの登場と普及。
インフラ……クラウドサービスや高速通信回線(WiFi、LTEなど)を安価で利用できるようになった。
リテラシー……誰もが日常的にスマートデバイスを使いこなすようになり、仕事で導入する際に特別な教育が必要ない。

 過去にも飲食店向けのITサービスはありました。しかし、店内にサーバーを設置する必要があり、そのための費用が何百万円もかかったり、自社システムを構築して管理・運営するためにコンピューターに関する専門知識が必要だったりと、飲食店の従業員にとって必ずしも使いやすいものとは言えませんでした。

 しかし、この2~3年の間に上記の3点が劇的に変化して、ITサービス導入のハードルは格段に下がっています。

 2つ目の理由は、集客(メディア)、仕入れ、予約管理、顧客情報管理、レジシステム、クレジットカード決済、売上管理、会計、勤怠管理など、飲食店を経営するためのそれぞれの業務に対して、現場にとって使い勝手のよいITサービスが徐々に登場しつつあることです。

 2015年11月の段階でリリースされている飲食店向けのITサービスの一覧は、下の図になります。さまざまなITサービスをカテゴリごとに分類して、主なプレーヤーをマッピングしたもので、言うなれば『飲食店IT化のための業界マップ』です。この図は後述する「FOODiT TOKYO 2015」のために作成したものですが、これまで飲食店向けのITサービスを俯瞰してまとめた情報はほとんど流通していなかったので、私自身完成したこのマップを見て「こんなにたくさんあるのか」と改めて驚きましたし、多くの方から「よくぞ作ってくれた」とご好評をいただきました。

 こうした変化が起きたことで、飲食店にとってのITサービスはこれまでと違うレベルで使いやすく、安く、手軽に試せるようになりました。これから一気に飲食店のIT化が進むのではないかと私は考えています。

 昨年10月、私が代表を務める株式会社トレタが中心となって、六本木アカデミーヒルズで「FOODiT TOKYO 2015」というカンファレンスを開催したのも、飲食業界を取り巻く以上のような状況を受けてのことでした。

 カンファレンスのテーマは、そのタイトルの通り、「FOOD(飲食業界)」と「IT(テクノロジー)」。外食産業の未来とテクノロジーの進化を考えるべく7つの講演・パネルディスカッションを実施しました。会場には全国から大勢の飲食店関係者に集まっていただき、飲食業に関わる方々のITサービスに対する関心の高さを見るにつけ、時代が動きつつあることを肌で感じることができました。

IT化によって実現する「効率化」と「高度化」とは?

 私は、2013年にトレタを設立する前のおよそ10年間、和風スタンディングバー「西麻布 壌」、とんかつ専門店「豚組」、豚しゃぶ専門店「豚組しゃぶ庵」などの飲食店を経営していました。

 さらにそれ以前はパナソニックや外資系広告代理店で働いていたため、飲食業界のことなど何も知らない門外漢だったわけですが、自分自身が飲食業界に身をおくことで痛感したのは、「飲食の現場はテクノロジーの恩恵からはほど遠い」ということです。これほどIT技術が普及した現在でも、飲食店の現場では常に多くの従業員を抱え、あらゆる業務を手作業でこなしています。

 増え続ける現場の負担をITで少しでも軽減できないか――そんな思いを抱いた私は、当時からテクノロジーと飲食店のよりよい関わり方についてずっと考え続けてきました。ツイッターが日本に上陸したときには積極的に集客に活用し、2010年に「外食アワード」を受賞させていただくとともに、その成果を『小さなお店のツイッター繁盛論』(日本実業出版社)という本にまとめさせていただきました。

 トレタを設立して予約台帳サービスを開始してからも、「どうすれば現場の人たちの負担を軽減できるだろうか」「どうすれば喜んで使ってもらえるだろうか」という徹底した現場目線で、ITサービスの提供に取り組んできたつもりです。

 かつては飲食店経営者として、そして現在は飲食店向けITサービスの提供者として、かれこれ10年以上、私は飲食店とITの関わりを模索してきました。では、IT化によって飲食店にもたらされる恩恵は何か? 突き詰めていくと、結局2つのことに行きつくと今は考えています。

 それは「効率化」「高度化」です。

 効率化とは「これまで行ってきた業務をより少ないコストや手間で行なうこと」、高度化は「今までやりたくてもできなかったことを実現すること」です。ITサービスを導入することで、この2つの変化が飲食店にもたらされます。

 効率化と高度化のどちらに重点をおくかは、店舗や業態によって異なってくると思います。

 大規模チェーンやカジュアル業態であれば、人手不足に対応するために効率化を重視するでしょうし、個人店や高級店であれば、サービス強化や顧客との関係性改善のために高度化を推進するかもしれません。もちろんその逆(「大規模チェーンが高度化を推進」「個人店が効率化を推進」)も考えられます。

 ITサービスはあくまで道具に過ぎないので、そのITサービスが「自分たちに何を与えてくれるのか」という受け身の姿勢ではなく、「ITサービスによって何を実現するのか(したいのか)」という自分たちの店のあるべき姿、つまり理想や目標を明確にしたうえで、効率化と高度化のベストバランスを模索する必要があります。

 また、効率化と高度化は、別々に切り離されたものではありません。効率化によって生まれた時間的、金銭的な余裕を再投資してサービスを向上させれば、それは高度化につながっていきます。効率化と高度化はコインの裏と表みたいなもので、表裏一体なのです。

 飲食の仕事は、ときとして非効率なことを重視する文化があります。たとえば、「料理の仕上げにもうひと手間かける」「メニューは毎日手書きで書く」などです。手間をかけることが感動につながる。手間をかけることが美しい。そんな価値観があるように感じます。

 私自身もかつて飲食店を経営した経験があるので、非効率が価値を生むことは理解できます。しかし、そうした非効率が単なる店側の自己満足で終わってしまい、お客さんにとっての価値創造につながっていかなければ、それはただの無駄な行為だと言わなければなりません。

 お客さんに提供する食事やサービスの価値を最大化するため、お店の何に丁寧に手間をかけて、何を徹底的に合理化していくのか。すべてのことに手間をかけるのは現実的に不可能だし、無意味です。しかし、すべてを完全に効率化して合理化してしまっては、飲食店としては面白みがない。やはり「効率化」と「高度化」のバランスが重要なのです。

 ちなみに、私自身が考える理想的な飲食店のオペレーションは、卵で言うところの「殻」が手間ひまかけた手作業で、「中身」の部分が機械化されて合理化されている、という状態です。お客さんから見える部分はすべてアナログで、その店独自のこだわりやあたたかみがある。けれども、殻を一枚はがせば、その内側では最先端のデジタルテクノロジーがその店のオペレーションを支援している。

 そうした飲食店こそが、これからの時代、お客さんに最大限の満足や喜びを提供できると思うのです。
 
 次回以降、この連載では、ITによって飲食店がどれだけ明るく幸せな職場になり、またお客さんの喜びも大きくなるのかを、実例とともに紹介していきます。お店の方だけでなく、飲食店を愛する全ての方に、楽しんでいただけるはずです。

 →第2回はこちらから!

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中村 仁

(なかむら・ひとし)パナソニック、外資系広告代理店オグルヴィ・アンド・メイザー・ジャパンを経て2000年に西麻布で飲食店を開業。立ち飲みブームのきっかけとなった「西麻布 壌」を皮切りに、とんかつ業態「豚組」、豚しゃぶ業態「豚組しゃぶ庵」などの繁盛店を世に送り出す一方、ツイッターを活用した集客で2010年に「外食ア ワード」を受賞。
2011年、料理写真を共有するアプリ「ミイル」をリリースしたのち、2013年に株式会社トレタを設立し現在に至る。
現在も「スクーリングパッド」をはじめ数々の飲食店向けセミナーの講師も務めている。
著書に『右向け左の経営術』『小さなお店のツイッター繁盛論』など。


飲食店を救う「ITサービス」ガイド

2015年は「飲食店IT化元年」と言われ、飲食店向けのITサービスが一斉にサービスを開始した年でした。
そして、その趨勢はすでに決まりつつあります。この連載では、そうした「飲食店を経営するうえで確実に利用したほうがよい」ITサービスを詳細に紹介していきます。
 

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