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“現状維持”が最悪の選択である
【第1回】 2016年4月1日
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井堀利宏

財政再建に消極的な政治と現在世代の重罪

財政健全化に消極的なアベノミクスのもと、消費増税は再延期の見通しが濃厚となってきた。消費税ありきとは言わないが、財政健全化そのものを先送ることで若い世代や将来世代に負担を強いる構造をそろそろ本気で変えるべく行動を起こすべきではないだろうか。本連載では、財政学の第一人者である井堀利宏・東京大学名誉教授が描く財政健全化に向けた具体策を順次ご紹介していく。

 消費増税を巡る政策決定が迷走している。

 安倍政権は消費税の引き上げに消極的である。2015年10月に予定されていた10%への税率引き上げは、「信を問う」と強引な解散総選挙を実施して、2017年4月まで先送りした。

 昨今は来年に迫った増税も「リーマンショックや大震災級の世界経済の収縮が起きなければ」という不明瞭な留保条件を付けるなど、及び腰になってきたのが窺える。安倍首相と菅官房長官は「消費税率を引き上げて税収が上がらなければ元も子もない」とも発言されていたが、そもそも消費税率を上げることで消費税収が減るなどということはあり得ない。

 合理性の欠ける言い回しに、よほど消費税率を上げたくないのか、と勘ぐりたくなる。増税凍結かという観測を一応は否定してみせるが、額面通り受け取れないのが安倍政権である。

 いずれにしても、増税時に導入する軽減税率などを含めた準備期間や、7月に参議院議員選挙が実施されることなどを勘案すれば、その前までに増税か否かの結論が下されるだろう。

 私は決して、消費税増税ありきと主張したいわけではない。ただ、巨額の国債残高があり、社会保障需要の増大が避けられないわが国の厳しい財政状況を勘案すると、歳出削減とともに10%程度の消費税率引き上げは避けられまい。

 仮に消費税増税を再度先延ばしするとして、1年の延期でも、2020年に基礎的財政収支を均衡させる財政健全化計画そのものを見直す必要が出てくる。消費税率の引き上げは、財政再建に対する本気度を試す一里塚ではないだろうか。財政再建を先延ばしすれば、いま生きている現在世代は助かるが今後生まれてくる将来世代は大きな負担を被る。再建タイミングは世代間格差に直結している点を忘れてはならない。

量的な歳出入改革だけでは、もはや限界

 では財政再建を着実に進めるうえで、量的な歳出入改革以外には何をすべきか。

 たとえば、財政運営の錘となっている社会保障費用の見直しは急務である。少数の若者が多くの年配層への給付を支える現行の賦課方式が続く限り、世代間不公平も解消されない。実の親子間で年金や医療費をまかなう個人勘定の積立方式への移行を検討すべきではないだろうか。

 また、そのように社会保障制度を抜本改革するには、抵抗勢力となる高齢者が過度に政治力をもつ現行選挙制度の改革が必須である。青年世代の選好が政治に反映される世代別選挙区の導入や選挙権年齢の引き下げなど、従来の弥縫策にとどまらない新たな仕組みが必要である。

 財政運営は政治の場で意思決定される。わが国の財政状況が悪化したのは、政治が若い世代や将来世代の利害を加味せず、その場しのぎで政策決定をしてきたためである。本連載では次回以降、財政赤字が世代間格差を助長する構造をふまえ、それを是正するための年金・医療制度改革や、その改革を可能にする選挙制度改革について私案を紹介していく。

 改革の痛みを甘受してでも抜本改革を実施できるかどうか、われわれ現在世代の良心が問われている。

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井堀利宏(いほり・としひろ)

東京大学名誉教授。政策研究大学院大学教授。1952年岡山県生まれ。74年東京大学経済学部卒業、81年ジョンズ・ホプキンス大学大学院経済学博士課程修了(Ph.D.取得)。東京都立大学経済学部助教授、大阪大学経済学部助教授、東京大学経済学部助教授、95年同教授を経て、97年から同大学院経済学研究科教授、2015年に同名誉教授。同年4月より現職。2011年紫綬褒章受章。主な著書に『現代日本財政論 財政問題の理論的研究』(東洋経済新報社、1984年、日経・経済図書文化賞)、『財政赤字の正しい考え方 政府の借金はなぜ問題なのか』(東洋経済新報社、2000年、石橋湛山賞)、『「歳出の無駄」の研究』(日本経済新聞出版社、2008年)、『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』(KADOKAWA/中経出版)など著書多数。


“現状維持”が最悪の選択である

財政健全化への消極性が若年世代や将来世代に与える影響のほか、財政問題を抜本改革するために必要な社会保障改革、それを実行するのに不可欠と思われる選挙制度改革について、具体案を提示しながら検討していきます。

「“現状維持”が最悪の選択である」

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