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サイボウズはどのようにして「100人100通り」の働き方ができる会社になったか
【第14回】 2016年4月5日
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青野慶久

組織論をスポーツにたとえて語る過ち
楠木建×青野慶久【2】

サイボウズ・青野社長と、新著『好きなようにしてください』を上梓されたばかりの一橋大学・楠木教授による対談第2回です。ユニークな企業文化を作り上げた青野社長は、多くの対談や他企業での講演をこなしています。そうした活動の中で感じていた「スポーツとビジネスにおけるマネジメントの違い」や、「サイボウズと異なる文化を持つ企業と、多様性の相性」について、楠木教授がクリアな考えをお話ししてくれました。(構成:谷山宏典 撮影:疋田千里)

岡田監督も苦労したスポーツとビジネスの違い

楠木 組織づくりやチームワークについて語るとき、よくスポーツのチームをビジネスの組織のメタファーとして使う人がいるじゃないですか。でも、僕はその喩えはあまり適切ではないと思っているんです。

楠木建(くすのき・けん) 一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。1964年東京生まれ。92年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。専攻は競争戦略。著書に最新作『好きなようにしてください』のほか、『ストーリーとしての競争戦略』『「好き嫌い」と経営』(ともに東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(プレジデント社)、『経営センスの論理』(新潮新書)などがある。

 スポーツの場合、何が統合のメカニズムになるかというと、結局は勝ち負けなんです。しかも1試合ごと、長くても1シーズンという時間的に短いスパンでの勝ち負けです。「試合に勝つ」「優勝する」という目的ははじめから明確に定義されているので、監督やコーチなどマネジメント側が意識的にチームを統合するための理想や目的を定めて、全選手に浸透させていく必要もありません。

 かたやビジネスの場合は、売上なのか、業界トップシェアなのか、社会貢献なのか、社員の幸せなのか、あらかじめ何も決まっていない状態から全社員が共感できる理想を見つけて、それを社員たちに受け入れてもらわなければならないわけです。理想や目的の設定と共有という点において、スポーツとビジネスでは複雑性、裏を返せば、組織の統合の難しさがまったく異なります。

青野 元サッカー日本代表監督の岡田武史さんは今、四国サッカーリーグのFC今治の運営会社「株式会社今治.夢スポーツ」の代表取締役を務められています。今治市は私の地元でもあり、岡田さんとお話をさせていただく機会が増えているのですが、彼がまさに、今おっしゃられたような統合の難しさに直面していました。

 それまでの岡田さんの仕事はサッカーチームの監督だったので、単純に「試合に勝つこと」を目標にチームづくりをされていたようです。しかし、チームの運営会社の社長になられて、もちろんチームを勝たせることも重要なのですが、それ以上にチームを使って「いかに地域に貢献するか」という軸に重きをおくようになりました。

 とはいえ、岡田さんにはサッカーチームの監督の経験はあっても、会社経営の経験はありません。だから、「どんなビジョンを描きますか?」とお聞きしても、「スタジアムを作りたい」「資本主義を変えたい」と、最初はビジョンがなかなか定まらなかったようです。現在では思考に思考を重ねて、「スポーツと健康のまちづくり」に固めつつありますが、「勝ち負け」とは異なる組織統合の軸を作るのは、「サッカー日本代表の監督を務めた方でも、こんな苦労するものなのか」と改めて理想を描く難しさを感じました。

楠木 ただ、ビジネスの世界でも、わりとスポーツに近いというか、マネジメント側が何もしなくても、もともとある統合のメカニズムが効いている会社や業界もあります。

 たとえば外資系投資銀行は、中にいる人は人種的にもスキル的にもかなり多様ですが、全員金儲けが大好きだという点で統合されています。しかも、その「金儲けをするぞ」という目的意識は、銀行に入ったあとで誰かから植え付けられたものではなく、もともと金儲けが好きな人たちが金儲けをしたいがために入行するケースが大部分を占めているのではないでしょうか。だから、どれだけ社内の多様性が高まっても、統合は自然になされていきます。はじめから組織として統合されているので、マネジメントの課題にもなりません。コストもほとんど必要ありません。ある意味で「理想的」な組織だと言えますね。

青野慶久(あおの・よしひさ) 松下電工を経て、1997年にサイボウズを設立、2005年より代表取締役社長に就任。グループウエア事業を展開し、06年に東証1部に市場変更。給与体系や勤務体系、勤務場所などの選択肢が多様な、国内では先進的な人事制度を導入している。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)がある。

青野 でも、そういう会社は珍しいですよね?

楠木 ええ、かなり特殊です。また、日本のメガバンクや官公庁もものすごく統合されている組織ですが、そこで働いているのは「昇進」というメカニズムだと思います。要するに「余計なことをしたら、偉くはなれないぞ」という考え方が組織全体で共有されているので、ビシッと統制もとれているのです。

 ただ、メガバンクや官公庁のように組織としてのまとまりを重視して、統合のメカニズムをぶん回していると、今度は個々の多様性をインクルージョンすることは難しくなります。でも、そこは皆さん大人なので、そんなことは重々承知のうえで「女性管理職を増やそう」「男性にも育児休暇を」と言っているわけです。本気で多様性のある組織にしたければ、男女関係なく、働きたい人にはしっかり働いてもらって、家族との時間を大事にしたい人にはそうしてもらって、個々に決めてもらえばいいのですが、そこまでは踏み込まない。自分たちができる範囲内での多様性だけ認めて、基本的には統合を重視する。

青野 まさに大人のダイバーシティ、ですね。

楠木 個々の多様性を認めたうえで組織として統合していこうと思ったら、やはりサイボウズのように手数もかかるし、コストもかかります。組織の理想や目的を決めた時点で、あきらめなければいけないこともいっぱい出てくるのではないでしょうか。だからこそ、ビジネスの組織、特に多様性をインクルージョンした組織の統合は難しいんです。

リクルート社も多様化すべきか?

青野 つい先日、リクルートさんから「組織の多様化についてアドバイスがほしい」というご連絡をいただいて、人事制度についてお話をさせていただく機会がありました。

 リクルートには社員の成長を促す制度があって、「30歳までにはここまで」「40歳までにここまで」と年齢ごとに到達するべきグレードがあるそうです。しかし、それを満たせなかった社員はいづらくなりますよね。「これからは多様化の時代だから、この制度も変えていった方がいいのだろうか」と、彼らは悩んでいるようでした。

楠木 青野さんは何とアドバイスを?

青野 変えた方がいいのか悪いのかはわからないけれど、少なくとも社員の多様性を認めてしまったら、現在の制度とは明らかな矛盾が出てきますよね、と。育児休暇をとっている間にその成長のカーブに乗れなくなったら、会社にいられなくなるわけですから。

 今後リクルートは、これまでずっと大事にしてきた制度、今のリクルートの成長を生み出してきた制度を手放してまで多様性を認めるのかどうかという、極めて重大な課題に直面していくのでしょうね。

楠木 もしリクルートが、サイボウズのような多様性を前提とした人事制度に移行したとしたら、むこう5年ぐらいは減収減益になるのではないでしょうか。なぜなら、多様性を追求すれば、現在のリクルートの強みを著しく損ねることにつながるからです。そうした損失があるとわかったうえで、「多様な組織に変わりたい」と言っているのかどうかが重要です。そこまでの覚悟がないまま、中途半端に多様化に取り組むのであれば、むしろ今のままの方がいいのではないでしょうか。

 多様化は組織の強さの源泉にもなりますが、一方で多様化によって失うものも多く、組織が弱くなる場合もあります。どちらになるかはケース・バイ・ケースで一概には言えないのですが、時間軸で見たときに、多様化すると直近では組織の力が弱体化し、その後統合ができて上手く組織が動き出すと、多様化が強みとして効いてくるのではないかと思います。

 何も考えていないダイバーシティおじさんほど、「多様化すれば、すぐにいいことが起こる」みたいな勘違いをしがちですが、物事は時間をかけてさまざまな順番で起きるものです。組織の多様化に取り組むときには、必ず時間的な奥行きを頭に入れておかなければいけません。

 ただし、あらゆるビジネスの組織の目的は「多様性」ではなく「成果」であるのは厳然たる事実です。短期的とはいえ組織の力が弱まる多様性を選択しない会社の方が多いと思います。そもそも組織が力を発揮できる方法はひとつではないので、成果を出すためにはその会社に合った最適な方法、一番得意な勝ちパターンを選択するべきではないでしょうか。

青野 僕もそう思います。多様化はあくまでもうちの会社が選択した方法であって、たとえば「猛烈営業部隊を作って、ガンガン売っていく」という勝ち方もありだと思います。多様性のある会社を作っておきながらですが、個人的にはそんな猛烈会社も嫌いじゃないんです。みんなが納得して働いて、しかも成果が出ているのだったら、それはそれで素晴らしい会社だと思います。個々人に多様性があるように、会社にだって多様性があってしかるべきですから。

楠木 どっちが良い悪いという話ではなく、それはもう「好き嫌い」の問題ですね。どちらかを決めたら、あとは一貫性が大切。どっちつかずがいちばんよくない。多様性を認めなくても、それで一貫したマネジメントが機能してて、成果が出ていればそれでいい。

青野 僕がそういった軍隊のような会社に共感できるのは、組織としての理想がはっきりしているからです。会社として「とにかく数をあたって、商品を売ってこい」という目標を掲げて、社員たちもその目標に共感して働くことで、ちゃんと成果も出ている。誰も不幸になっていませんよね。

 僕がイライラするのは、掲げている理想とやっていることがぜんぜん違う会社です。たとえば、家電メーカーで「電化製品を安価でユーザーに提供するぞ」と言っておきながら、主力商品が高価格帯の製品になっていたりすると違和感があるし、そんな会社で働いていると不幸になる社員もきっと出てくると思います。

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青野慶久 

あおの・よしひさ 1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。また2011年から事業のクラウド化を進め、2015年11月時点で有料契約社は12,000社を超える。総務省ワークスタイル変革プロジェクトの外部アドバイザーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)がある。


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