親の判断能力は十分でも、何らかの理由で身体が不自由になり、日常生活に不便を来す場合もあります。こうした場合に備えるのが「財産管理等委任契約」です。

 これは、自分の財産の管理やその他の生活上の事務の全部または一部について、代理権を与える人を選んで具体的な管理内容を決めて委任する契約です。任意代理契約とも呼ばれ、民法上の委任契約の規定に基づきます。財産管理等委任契約は、当事者間の合意のみで効力が生じ、内容も自由に定めることができます。

 第4回で取り上げた任意後見契約と財産管理等委任契約との違いは、任意後見契約は判断能力が不十分になった場合に利用できるものですが、財産管理等委任契約は本人の判断能力が十分で、「身体が不自由になった場合」に利用できる点です。

財産管理等委任契約が
必要な理由

 たとえば、あなたの親が脳梗塞で倒れ、身体が不自由になり、車イス生活になったり、後遺症で言葉がうまく話せなくなったり、字が書けなくなったりすると、本人による財産管理は事実上できなくなります。こうした場合、身近に家族がいる場合、以前なら家族に頼んで銀行預金の引き下ろしなどができました。

 ところが、金融機関等では「本人確認法」施行以来、本人でなければ家族でも預貯金が簡単に引き出せなくなりつつあります。もちろん、ちゃんとした委任状があれば第三者でも金融機関での手続きはできます。しかし、預金を下ろすなどの日常の事務手続きのたびに、いちいち委任状を作成するのは大変面倒です。

 一方、任意後見契約を結んでいたとしても、判断能力が十分ある場合は、契約を発効させることができません。そこで、日常の事務手続きは信頼できる誰かが包括的に代行できるよう委任契約を結んでおくと便利です。それが財産管理等委任契約です。

 第4回で述べたとおり、任意後見契約とセットで契約を結び、移行型の契約とすることで、寝たきりや認知症が進行した場合にも継続して財産管理が支援されます。