日中関係の緊迫、そして中国の空母配備を受けて、中国の軍事力に対する警戒感が高まっている。その“脅威度”をどう見るかは、今後の日本の防衛戦略、外交戦略も大きく左右するだろう。しかしこの種の問題に当たっては、感情論ではなく専門知識に基づいた冷静な分析を行うことが重要だ。“軍事の専門家”の意見を聞いた。(「週刊ダイヤモンド」編集部 河野拓郎)
1954年生まれ。学習院大学文学部フランス文学科卒業。航空雑誌「月刊エアワールド」編集者、艦艇雑誌「月刊シーパワー」編集者を経て、フリーの軍事評論家。有事の際はテレビの報道番組での解説などで活躍。豊富な知識に基づいた冷静な分析で定評がある。著書に『検証 日本着弾 「ミサイル防衛」とコブラボール』(扶桑社・共著)など。
──日本にとって、中国の軍事力はどれくらいの脅威なのでしょうか。
まず理解しておく必要があるのは、中国軍は確かに大きいが、それがそっくり日本に向かってくるのではない、ということです。中国も方々に戦力を振り向けねばなりませんから。
それにしても、その大きさは無視できません。戦車や航空機がたくさんあるのは昔からですが、近年、顕著なのは、質的に向上していることです。
70~80年代は、朝鮮戦争時代そのままのような兵器が主でしたが、鄧小平政権以降に近代化が目覚ましく進みました。
今に至っては、例えば戦闘機では国産のJ-10とその改良型のJ-10B、ロシアから買ったスホーイSu-30MKKや、スホーイSu-27のライセンス生産であるJ-11といった、日本の主力戦闘機F-15Jに匹敵する、あるいはそれをしのぐほどの戦闘機を持つようになっています。
海軍の増強も特筆すべきものがあります。昔は沿海向けの小型の船しかなかったのですが、いよいよ空母も就役し、新型の駆逐艦、フリゲート艦や揚陸艦も急速に建造しています。
──すると、やはりかなりの脅威なのでしょうか。
F-15JとSu-30MKKが、もし1対1で戦ったらどちらが勝つかでいえば、Su-30MKKかもしれません。しかしこれは“虎とライオンが戦ったらどちらが勝つか”のような単純化された議論で、あまり意味がありません。もっと視点を広げて、冷静に見る必要があります。