海の泡から生まれた美神アフロディーテ(ビーナス)神話の発祥の地はキプロスである。文明の源流にひたる地中海の島がユーロ体制を動揺させている。銀行封鎖・預金課税という新手の荒療治が始まった。国家の債務危機という「EUの病」は、金融危機と表裏一体で、ある日突然、預金が国家に奪われる、という事態が日常に起こることを示した。
キプロス危機は他人事か
日本から見たキプロス危機は、他人事である。
「EUは大変だ」「ユーロ体制は保ちますかね」そんな反応がほとんどだ。
そうだろうか? 私には、このほど発足した日銀の黒田東彦総裁が抱える課題とキプロスは二重写しに見える。
キーワードは国債。銀行は火薬庫、ということだ。
もちろん日本は、キプロスのように外国の資金に頼る経済ではない。産業の厚みも経済規模も比べものにならない。だが、国家債務と金融不安が隣り合わせになっている経済の構造は変わりない。
「日本がキプロスみたいになるわけはないじゃないか」
ほとんどの人は、そう思っているだろう。平時では、皆そう考える。原発がそうだったように、身近に危険がありながら、変わらぬ日常がつづいている限り、人々はまさかの事態は考えない。
キプロスもそうだった。20世紀末に金融国家を針路としたキプロスの人々は「ギリシャ危機さえなければ、こんな悲劇に見舞われることもなかったのに」と嘆いているだろう。
事の起こりはギリシャにあったが、キプロスにも問題があった。銀行がカネを貸して企業を育て、共に成長する、という本来の業務から逸脱したことである。集めたカネで国債を買いまくり、金利の低下で大もうけする、という金融業の堕落。リスクを取らず浮利を追う経営に走ったキプロスの銀行は、実は大変なリスクを犯していた。国債といってもギリシャ国債をたくさん買っていたのである。国家は破綻しない、という金融常識によりかかった経営が、ギリシャ危機で裏切られた。