先日スペインに行った。ある都市では筆者を見て「アジア人だ」と認識すると、韓国のラッパー、PSYの「江南スタイル」を踊り始めた。

 日本と韓国の違いは彼らにはわからず、サービス精神で喜ばせようとしてくれているのでむげにはできない。パブの外で大勢がビールを飲んでいる場所を通り過ぎようとしたときは、十数人が「江南スタイル」を踊り始め、脱出するのが大変だった。陽気なスペイン人だが、彼らの何割かは失業中だっただろう。5月31日にスペイン中央銀行は「失業率は許容できない水準に達している」と危機感を表明した。第1四半期の失業率は27.2%、25歳未満は57.2%だ。

 しかし、これほどの高失業率の割にはスペインの治安は荒れていない。将来不安の高まりからデパートや高級レストランの売り上げ減少は顕著だが、ホームレスは米国よりはるかに少ない。理由の一つは、親族の中に困った人がいると、皆で支え合う「親族のセーフティネット」にある。「高失業率は問題だが、薄らいでいた大家族主義が戻ってきたことは喜ばしい」という声が聞こえた。

 また、税務署に捕捉されない副業など、地下経済からの収入が家計を補助してきた面もある。2010年のVISAの資料によると、スペインの地下経済の推計規模は対GDP比19.5%と高い。

 スペインの経常収支は意外な大幅改善を示しており、今年は通年で黒字転換すると当局は予想している。ただし手放しで喜べない面がある。内需が駄目なため輸入が大幅に減り、企業は輸出を増やすしかなく、結果、貿易収支が改善した。食品(オリーブ油、イベリコ豚、ワイン)、高速鉄道、自動車(欧州で生産台数2位)など輸出できる品目が多い点は、スペインはギリシャとは決定的に異なる。