なぜ店舗の中心に「修理カウンター」を設けたのか?
「一番目立つ場所にReBIRD™(リバード)サービスセンターを置いた理由。それは、ここが単なる『修理受付』ではなく、私たちの『哲学』そのものだからです」
そう語るのはアメアスポーツジャパンのアークテリクスブランドヘッドの高木 賢氏だ。
2025年10月30日、アークテリクス(ARC’TERYX)は池袋駅直結の東武百貨店内に、同ブランドとして国内最大級のブランドストアをオープンした 。
かつて美術館として使われていたこの場所は、高さ約4mの天井に売り場面積528.8㎡を誇る。そして、広大なワンフロアの中心にあるのは、ジャケットでもバックパックでもない。無骨な工業用ミシンと、巨大な洗濯機だ。
この施設は国内3拠点目となる「ReBIRD™サービスセンター」である。新宿ブランドストアでは4階に配置されていたこの機能を、池袋ブランドストアではあえて店舗の「顔」としてフロアの中心に配置した。
ReBIRD™サービスセンターは、アークテリクスが掲げる「デザインで循環を促す」という哲学を具現化した、製品の機能を回復するためのリペアとメンテナンスの専門拠点だ。
高木氏:アークテリクスは、売って終わりのブランドではありません。「Design to Last(長持ちするように設計する)」という信念の下、お客さまが製品を長く愛用し続けるためのケアや修理を、隠すことなく堂々と見せたかったのです。
そこには、効率を追求する現代の小売業とは一線を画す、ブランドの強烈な哲学がある。
高木氏:洗濯機が回り、ミシンが動くその光景を通じて、訪れる全ての方に「ものを大切に使い続けること」の価値と、私たちの本気度を感じていただきたい。ここは、お客さまと私たちが「道具への愛」でつながる、ブランドの心臓部なのです。
ゴアテックスアパレル製品の洗濯は最短当日に仕上げ、返却可能だ。洗濯することで機能が戻り、より安全に長く使用可能となる
核となるのは「サステナブル」ではなく「デザイン」である
「ReBIRD™」について、多くの人は単なる修理サービスや、昨今はやりのサステナブル活動の一環だと捉えるかもしれない。しかし、高木氏はその認識を明確に否定する。
高木氏:ReBIRD™は、サステナブルという文脈ではなく、「デザイン思想」そのものです。
アークテリクスにおいて、循環の思想は製品が作られた後の「アフターケア」だけを指すのではない。製造前の「ビフォー」、つまりデザインの段階からすでに始まっている。
高木氏:ものづくりの考え方の核に「Design to Last」がありReBIRD™というプログラムがあります。デザインする時点から、修理を前提に、生地の共通化や仕様の簡素化などを考慮して設計しているのです。まずはデザインが先にあり、長く使っていくことで、結果として環境負荷が減るのです。
修理の現場は、情報の宝庫でもある。持ち込まれたウエアから「どこが壊れやすいか」「どの素材が修理しにくいか」といったデータが集まり、それがデザイナーにフィードバックされる。その知見を生かして次の製品が改良されるという、デザインと修理が一体となった循環システムが構築されているのだ。
壊れやすい部分はデータとして蓄積され、次のデザインや縫製に生かされる
市場に迎合しない「Design From Scratch」
この循環を支えているのが、創業以来の哲学である「Design From Scratch(ゼロからの設計)」だ。既存の製品を模倣するのではなく、自分たちがフィールドで本当に必要とするものをゼロから作り上げる 。
その象徴ともいえるのが、ブランドのアイコンである「Alpha SV Jacket」だ。1998年の誕生以来、その胸ポケットの位置は変わっていない。
高木氏は、このジャケットが開発された当時の衝撃をこう語る。
「普通、街着として売ることを考えれば、腰の位置にポケットを付けたくなります。しかし、ハーネスを装着することを前提とすれば、腰のポケットは使えなくなるし、無駄でしかない。だからアークテリクスは、胸の位置にポケットを取り付けたのです」
売れるための機能(マーケットイン)よりも、本来の目的であるクライミング時の機能(プロダクトアウト)を優先する。この徹底した姿勢が、アウトドアコア層に支持される「タイムレス」なデザインを生み出し、結果として長く使い続けられる製品となる。
高木氏:汎用性は低いかもしれません。しかし、そのシーンで使えば最高に良い。本当のコア層に向けた「やり切り」こそが、アークテリクスのブランドの強みです。

「機能が回復しないなら、修理は断る」
池袋ブランドストアのReBIRD™サービスセンターでは、スタッフが顧客に対して修理を断る場面があるという。それは、単に直せないからではない。「機能を回復できない」と判断するからだ。
高木氏は、その厳しい基準についてこう説明する。
「例えば、生地の剝離などで防水機能が損なわれている場合、縫い合わせて形を整えることはできます。しかし、それでは雨などの水分が衣服内に浸入した際、その水分が身体の冷えにつながり、体力を消耗したり、行動が制限されたりして大きなリスクとなります。私たちが提供しているのはギアであり、機能を回復させるために修理をしているのであって、見掛けを回復させるために修理しているのではないのです」
バックパックのショルダーハーネスが破損した場合も同様だ。見た目を直すことはできても、重い荷物を背負って山に入った際、再び破損する可能性がゼロではない以上、修理は受けない。
高木氏:もし山中でバックパックが壊れ、食料も着替えも失ったら、それは「死」を意味することもあります。直したふりをして、ギアとして使えないものをお返しするわけにはいかない。それを説得するのは大変ですが、強硬に伝えています。
その一方で、機能を維持するためのケアには採算度外視で投資する。ゴアテックス製品の購入から3年間は修理費用の30%までを無償化し、店頭での洗濯サービスも無料で行っている。
高木氏:正直言って採算度外視です(笑)。しかし、正しい洗い方をレクチャーし、長く使ってもらうことで、環境へのインパクトを抑える。お客さまとのロイヤルティーを築き、自分たちの哲学を貫くためにも、そこに投資するのです。
<<ReBIRD™ステートメント>>
KEEP THE GOOD IN PLAY.
製品の命を、生かし続ける。
山に向かうアスリートの挑戦をサポートし続けるために。
私たちは、製品のメンテナンスにも情熱を注いでいます。
ReBIRD™は、機能性を維持させる日々のケアから、
破損の修理まで、製品の一生に寄りそうサービス。
いくたびの冒険、いくつもの季節を越えても、
その製品が変わらず信頼できるパートナーであるように。
カナダの工場と同じ機器にてReBIRD™スタッフがリペアを行う
ブランド発の知識・体験を共有するプラットフォーム
池袋という立地にも、明確な意図があった。アークテリクスが七大都市への出店を終えた17年ごろから出店場所を探していたという。
「東武東上線と西武池袋線のある池袋は、山へ行くための起点なんです」
高木氏は、池袋を新宿と並ぶ「山へのゲートウエー」と位置付ける。都心にありながら、秩父や日本アルプス方面への玄関口となるこの場所は、都市生活者とアウトドアフィールドをつなぐ拠点として最適だった。
店内のボードには池袋を起点としたアウトドアスポットが紹介されている
池袋ブランドストアの店内には、製品が並ぶエリアの隣に、売り場としても使えるほどの広さを誇る「コミュニティースペース」が設けられた。ここには、長野県の古書店「書麓(しょろく)アルプ」によってセレクトされた山にまつわる本などが並ぶ本棚がある。
高木氏:書棚には金継ぎの本もあります。一見アウトドアと関係ないように思えるのですが、大切なものを補修しながら長く使っていくという日本の文化がReBIRD™の精神性に通じるからです。
またこのコミュニティースペースではアップサイクルの「ワークショップ」を行ったり、これから山を始めたい初心者のための「ゼロイチのイベント」や、ロイヤルカスタマーが集う「バードクラブ」の活動拠点となる。
参加者はここに集合し、装備を確認し、スタッフと会話を交わしてからフィールドへと出発する。ここはブランドの哲学を共有し、体験へと送り出す「プラットフォーム」なのだ。

「自立したアウトドアパーソンを育てていきたい
今後の展開について、高木氏は「山の近く」への出店を模索していると語る。ニセコや白馬、日本アルプスの麓など、ユーザーが実際に遊ぶフィールドのそばに拠点を構える構想だ。
さらに、グローバルで展開している「アウトドア教育プログラム(アカデミー)」の日本版の導入も検討している。雪崩対策やロープワークなど、安全にアウトドアを楽しむための高度な知識を提供する「学びの場」をつくるのが目的だ。
高木氏:アウトドアは自己責任の遊びです。だからこそ、自分自身のレベルを高めるエデュケーションの場を提供したい。ただハイプライスのアウトドアブランドだと思われるのではなく、製品が本当に使いたい場所で有効であることを、体験を通じて伝えていきたいのです。

池袋ブランドストアは、ブランドの哲学を「伝える」ことを重視して設計された。売り上げよりも信頼を、消費よりも循環を重視するその姿勢が、アウトドアコア層とのロイヤルティーを深化させ、支持され続ける理由なのだ。
