【第9回】 2010年01月21日
食事に“美味しい”は要らない?―ガソリン補給のためだけに食べる人々
食事は私たちの生活の基盤をなすものですが、食生活にはその人の生活の様子が如実に反映してくるものです。
「うつ」の方々の治療を行なう中で、クライアント(患者さん)に食生活の内実を仔細にうかがってみると、その人が「うつ」に陥る背景となった問題点がそこに象徴的に表れていることがわかります。
そこで今回は、食生活という観点から、現代人が陥りがちな不自然な状態について検討してみたいと思います。
「同じもの」を食べ続ける人々
――昼食は、いつも同じカップ麺を食べていた。
――毎朝、同じファミレスで同じモーニングセットを食べ、昼は数か所のランチを延々とローテーションし、夜はいつもコンビニ弁当を食べていた。
このように、「同じもの」を延々と食べ続けるような食生活になっている人が案外少なくありません。
このような食生活を続ける人にとって、食事はいわばガソリン補給のようなものになっていて、その都度「何を食べようか」と考えること自体が面倒に感じられるので、メニューが必然的に固定化してしまうようです。
前回、「生き物の最大の特徴は、その即興性にある」と述べましたが、このように固定化した食生活では、まさにその即興性が失われてしまって、「死んだ」食事になってしまっていると言わざるをえません。
しかも、このような食生活になっている場合には、その料理の内容自体も、冷凍やフリーズドライなどのプロセスを経た料理で済ませていることが多いようです。
しかし、料理とは単にカロリーや栄養を補給するためだけのものではなく、いわば「魂の食べ物」でもあるわけですから、たとえ栄養分析的には同じものであっても、その作られる過程において「心が尽くされたもの」であるかどうかという点は重要です。つまり、それが「生きた」料理であるかどうかは、それがいかにして作られたものなのかによって左右されるものなのです。
その意味で「死んだ」料理ばかりが続いても、そこに違和感を覚えないというのは、生き物としてはかなり不自然な状態に陥っていると考えなければなりません。つまり、「生きた料理」か「死んだ料理」かといった「質」の判断が行われていないというのは、知らず知らずのうちに、自分が機械のような「死んだ」状態に近付いてしまっていることを表しているのです。
人間の身体に、足し算引き算は当てはまらない
――健康のために、毎日必ず○○を食べるようにしています。
――不足がちな栄養素を、きちんとサプリメントで補っています。
これらは一見、とても健康に配慮しているように思える発言なのですが、しかし、そこで実際に行われている食行動自体は、必ずしも適切なものだとは言えません。
ここで問題なのは、「足りないものは補い、過剰なものは摂取を控える」といった足し算引き算レベルの算術的発想を無批判に信奉している点と、「毎日必ず」という形で、生き物の即興性を無視した固定的な「習慣」に縛られている点です(前連載の第7回参照)。
このような考え方が流布されたのも、そもそも西洋医学が初歩的な算術的発想を基盤にしがちであり、また現代の栄養学もそれにならって同様の発想になってしまっていることに原因があると考えられます。
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著者プロフィール
- 泉谷閑示
(精神科医)
1962年秋田県生まれ。東北大学医学部卒。東京医科歯科大学医学部付属病院医員、(財)神経研究所付属晴和病院医員、新宿サザンスクエアクリニック院長等を経て、現在、精神療法を専門とする泉谷クリニック院長。著書に『「普通がいい」という病』(講談社現代新書)と最新刊の『「私」を生きるための言葉』(研究社)がある。
「泉谷クリニック」ホームページ
この連載について
今日急増している「うつ」は、もはや特定の個人の問題と捉えるだけでは十分ではない。現代人が知らず知らずに翻弄されているものの正体は何か。前連載に引き続き、気鋭の精神科医が豊富な臨床経験をもとに読み解く。
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