【第90回】 2009年12月02日
ドバイ・ショックという
“ミニ・ブラックスワン”
「ブラック・スワンはまだ隠れていたのか、そんな感じだ」と電話の向こうで、ベストセラーのタイトルを引用し、ニューヨークの投資銀行幹部はそう言った。
ブラック・スワン(黒い白鳥)とは、常識ではありえない事象のことを指し、三つの特徴を持つ。第一に、予測できない。第二に、非常に強い衝撃を与える。第三に、それにもかかわらず、いったん起こってしまうと、後知恵で簡単に説明されてしまう――。
ウオール街の論客であるナシーム・タレブ著の「ブラック・スワン」は世界経済がサブプライム危機に陥る直前に米国で出版され、予言の書として売れに売れた(邦訳は同題名で弊社ダイヤモンド社から刊行されている)。実際、私たちはとりわけリーマンショック以降、上記の三条件を満たした金融事件、ブラック・スワンに100年に一度という形容詞付きで何度も遭遇した。今、ようやく最悪期を脱し、不安材料が出尽くし、自国の経済は回復に向かうと各国政府が認識を示し始めたなかで、ドバイ・ショックが起きた。
国際金融市場は大きく動揺した。
アラブ首長国連邦ドバイ首長国の政府系持ち株会社ドバイワールドが債務返済猶予を要請した途端、世界中の投資家はドバイ首長国の返済能力への不安に駆られ、安全を求めた米国債などに逃避した。欧州の金融システム不安が連想され、各国の株式市場は下落し、為替は混乱し、デフレを深刻化させかねないと日銀は緊急政策決定会合開催に追い込まれた。
ドバイなど金融プレイヤーとしては、ごく小規模な市場である。言ってみれば、ミニ・ブラック・スワンに過ぎない。事の中身は、意気込んで建設した豪華なリゾートやオフィスビルが目論み通り収益を上げられず、政府系会社が悲鳴を上げたと、いうありふれた商業用不動産ビジネスの挫折だ(見事に、「後知恵で簡単に説明できる」という第三の条件に当てはまる!)。
だが、波紋は瞬く間に世界中に広がった。震源地のマグニチュードが大きかったわけではない。受け止める側の――米国も欧州もアジアも――債務問題が根強く残り、自覚している以上に金融システム、経済実態が脆弱だったということであろう。
ここでは、米国経済と金融システムを検証しよう。
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著者プロフィール
- 辻広雅文
(ダイヤモンド社論説委員)
1981年ダイヤモンド社入社。週刊ダイヤモンド編集部に配属後、エレクトロニクス、流通などの業界を担当。91年副編集長となり金融分野を担当。01年から04年5月末まで編集長を務める。主な著書に「ドキュメント住専崩壊」(共著)ほか。
この連載について
政治・経済だけではなく、社会問題にいたるまで、辻広雅文が独自の視点で鋭く斬る。旬のテーマを徹底解説、注目の連載です。
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