保護貿易主義が強まる一方、中国企業が躍進するグローバル経済にあって、日本企業が勝ち残るにはどうすべきか。最新号の『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』10月号では、「グローバル戦略の再構築」を特集しました。

ホンダ、業績好転の背景に
適応戦略と集約戦略の調整あり

 今後、内需拡大が大きくは見込めないなか、日本企業が成長していくためには、世界の需要を取り込んで行く必要があります。しかし、米国トランプ政権はTPPの離脱に続いてNAFTAの再交渉を開始し、ヨーロッパでは英国が国内選挙でEU離脱を決めるなど、先進国では保護貿易主義が強まっています。

 また、中国では人件費が高騰し、ブラジルは政治が混乱するなどでBRICs経済は変調状態です。混迷期に企業はグローバル戦略の見直しを迫られており、関連する優れた論文がHarvard Business Reviewにも多く掲載され、特集を組みました。

 特集トップの論文「トランプ時代のグローバル戦略」では、「反グローバルの流れに転じたのではないか」と浮足立つ世論を前に、グローバル論の権威パンカジュ・ゲマワット氏が真骨頂を発揮しています。実証データと独自調査を元に通説の誤りを指摘し、グローバル戦略を解説します。

 それは、①貿易や投資相手国ごとの違いを調整して現地ニーズに応える適応戦略、②規模と範囲の経済を獲得する集約戦略、③国ごとの優位性を生かすアービトラージ戦略の3つです。著者についてはdhbr.netの「論文セレクション『5月の注目著者』」を是非ご参照ください。

 特集2番目に掲載のホンダ社長の八郷隆弘氏のインタビューをご覧いただくと、同社がゲマワット氏の適応戦略と集約戦略を応用していることがわかります。一時期、適応戦略を短期間に推進して現場に無理が生じましたが、戦略を調整しています。

 八郷氏が米国駐在時代に米国人デザイナーに自動車開発で説得された話、今日、中国の二つの大企業に「兄弟車戦略」を導入した際の交渉法など、海外現地生産を先駆けた企業の強みを知り得ます。その一方で、EV化という世界の流れにどう対応して行くかという課題が残ります。

 そのEVを2輪車で、そして新興国で市場開拓しているのがテラモーターズです。社長の徳重徹氏が「新興国で勝ち残る5つの鉄則」を実体験から論じています。氏の言う通り「日本に籠っていては絶対に得られないチャンスがそこ(新興国)にある」わけです。

 しかし新興国にはリスクも多い。どうすればいいのでしょうか。特集4番目の論文「アフリカでの成功に不可欠な市場創造型イノベーション」では、クレイトン・クリステンセン氏が成長需要に合った商品開発で攻めるプル戦略を説きます。「イノベーションのジレンマ」の著者らしい見方です。