オフィスでは仕事に集中できないけど、カフェでは心地よく働ける。そんな人も多いのではないか。それが単なる気持ちの問題ではないことが、科学的な実験から示された。問題は、雑音があることではない。むしろ、多少のノイズは創造的な思考を活発化させる可能性すらあるという。


 数年前、ある著書について取材を受けていたとき、ふと取材者がもらした言葉をいまでもよく思い出す。オープンスペースのオフィスではいかに集中できないか、さんざん文句を並べ立てた後、彼はこう言った。「だから、通りの向かいにあるコワーキング・スペースの会員になったんですよ。仕事に集中したくてね」

 オープンスペースのオフィスに対する思いには全面的に同意するが、最後のセリフには首をひねった。コワーキング・スペースは通常、オープンスペースのオフィスと同じようにデスクなどを配置しているからだ。

 しかし、その後、脳に対する音の影響を調べた一連の研究に出合い、前述の記者の選択がよい結果を生んでいるか、私は知ることになった。

 これまでの研究によれば、オープンスペース、または間仕切りで分けたキュービクル型オフィスで働く人にとって、最大の問題は不必要なノイズだった。

 だが最新の研究によると、私たちの集中力を削ぐのは音そのものではないようだ。むしろ、音を誰が出しているかが重要らしい。実際には、オフィスでのある程度の話し声は背景としてむしろ、創造的な仕事を助ける可能性がある。ただし、会話に引き込まれるなどがないという条件付きではある。

 クリエイティブな仕事のための理想の作業環境は、完全な無音ではなく、少しだけ背景ノイズがあったほうがよい。うるさいコーヒーショップではよく集中できるのに、うるさいオフィスではほとんど集中できない理由はこれなのだ。