『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』では毎月、さまざまな特集を実施しています。ここでは、最新号への理解をさらに深めていただけるよう、特集テーマに関連する過去の論文をご紹介します。

 2019年2月号の特集タイトルは「コレクティブ・インパクト」である。

 ユニリーバ、ネスレ、トヨタ……世界の名立たる企業は、社会課題の解決を通じて経済的価値を創造している。ただしこれは、企業単体でできるものではなく、政府、NPO、各種機関、地域社会との協働が欠かせない。コレクティブ・インパクトは企業にとって、新たな事業機会の発見や、イノベーションの促進につながるという利点もある。

 慶應義塾大学特別招聘准教授の井上英之氏による「コレクティブ・インパクト実践論」では、ソーシャルイノベーションの系譜をたどりながら、企業とNPO、行政などが共通のアジェンダを設定し連携して課題解決に当たる、新たなアプローチ「コレクティブ・インパクト」の実践方法を提示する。特定の社会課題の解決や新しい社会のビジョン実現を、どのようにしたら意図的に起こせるのか。その方法論を示した「ソーシャルイノベーション」(社会変革)の分野がいま、NPOや公的セクターだけでなく、企業からも注目を集めている。社会課題の解決を目指すことで、企業の社会的責任を果たせるだけでなく、成熟した市場において新たなニーズを発見できたからで、経済的な価値の創造へとつながるのだ。

 FSG共同創業者兼マネージングディレクターのマーク R. クラマー氏らによる「コレクティブ・インパクトを実現する5つの要素」では、コレクティブ・インパクト」の原理を分析し、基本要素について検討していく。今日、企業経営ではCSV(共通価値の創造)、すなわち社会的便益を生む方法で経済的成功を目指すことが、不可欠になっている。だが、現実には企業が単独で実現できることは少ない。どの企業もエコシステムの中に存在し、社会情勢や政策の変化による市場縮小、協力企業の低迷などの影響を受けるからである。そうした制約を超えるためには、政府やNGO、地域社会との協働を進める新たなフレームワークが必要だ。本稿はDHBR2017年2月号収録の同名論文を要約して掲載。

 コロンビア大学准教授兼研究員のハワード W. バフェットらによる「企業は利益のために そして社会のために」では、HBR.orgから3つの記事を紹介し、新たな段階に入りつつある企業と社会との関係を考察する。

 ステート・ストリート会長兼CEOジョセフ・フーリー氏による「世界的金融グループが社会変革に果たした役割」では、同社の取り組みをトップが語る。ジョセフ・フーリーは、これまで協力してきた公教育関連の官民連携事業が思うような実績を上げていないことに気づく。そこでフーリーは複数の非営利団体を巻き込んで、ステート・ストリートならではの人材育成プログラムを立ち上げた。ボストン・ウインズと名付けられたこのプログラムは、都市部の公立校に通う青少年に良質な高等教育を与え、就職までサポートしようというものだ。これは経済成長の促進や犯罪率、失業率の低下など社会問題の解決にも寄与するだけでなく、ステート・ストリートにとってもよい人材の確保というメリットがあった。

 ハーバード・ビジネス・スクール教授のタルン・カナ氏による「テクノロジーだけでは社会変革は起こせない」では、社会変革を制度や規制という視点から論じた。最先端のテクノロジーは、社会の現状を追い抜いてしまう。しかし、制度や規制を無視して先走ったところで、社会に受け入れられることはなく、成功はおぼつかないだろう。規制当局を巻き込み、競合企業や利害関係者の信頼を得て、産業全体の発展を促すエコシステムをつくらなければならない。それこそが、世の中を切り拓くイノベーターの使命である。

 トヨタ自動車取締役副社長寺師茂樹氏へのインタビュー「トヨタは、生き残りを賭けて、協調し、競争する」では、経営企画の責任者から技術部門のトップに転じた寺師茂樹副社長に、社会的課題に対する同社の取り組みについて聞いた。日本の基幹産業である自動車産業が転機を迎えている。地球温暖化や高齢社会における移動手段の確保といった社会的課題の増大を前に、対策を迫られている。また、100年に一度の変革といわれる技術革新が、産業構造を変えようとしている。トップ企業のトヨタ自動車は、業種・業態を超えた協調により、こうした環境変化に対応しようとしている。