DHBR最新号の特集「なぜイノベーションを生み出し続ける企業は組織文化を大切にするのか」。ここでの「大切にする」の真意は、「後生大事にする」ではなく、「重要に扱う」です。多くの企業では、連続してイノベーションを生むには、天才的な個人の力に期待するのではなく、そのために適した組織文化を醸成することが大切であり、現実的です。この点はマネジメントが可能で、実現性が高まります。それをいかに実践するか。特集ではいろいろな視点から論じています。


 特集1番目の論文は、「イノベーションを促す革新的文化は誤解されている」という指摘から始まります。その文化に、「失敗を許容し、実験に積極的で、心理的安全性が保たれ、協働が盛ん、階層が少ない」という特徴があることは通説通りだが、同時に、「厳格さや規律が不可欠である」と主張します。

 そうした緊張関係を、組織にどのように植え付けていくかを、論文では示しています。ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)で長年、イノベーション経営について研究し、多くの提言を行ってきたゲイリー・ピサノ教授の最新論文です。

 組織文化の形成には、リーダーが大きな影響を及ぼします。端的な例では、スタートアップの組織文化は、創業者の仕事ぶりがベースになります。

 特集2番目で登場する丸井グループは典型です。創業者による月賦百貨店、2代目による若者へのクレジットカードの普及と、代々ビジネスモデルを創造してきましたが、根底には「顧客とともに信用を創造する」という時代を超えた企業の価値観がありました。

 3代目社長の青井浩氏にビジネスモデルを転換する難しさと、固有の価値観を活かして困難を超える方法を語っていただきました。

 特集3番目は、3つの論文で構成されています。1つ目の筆者は、デザイン思考の伝道者であるIDEO社長のティム・ブラウン氏です。

 ブラウン氏は、今、先進国企業で求められているのは、これまでの効率追求の姿勢を、創造性追求へシフトさせることと言います。そのために、組織構造や指揮の方法、組織文化など、諸々の経営慣行を一新する必要があるとして、そのためのリーダーの役割を説きます。

 2つ目は、HBS教授のフランチェスカ・ジーノ氏が、世界トップクラスのレストランでの従業員教育を題材に、創造性のマネジメントを論じます。同店では、伝統的なイタリア料理界の慣習を破ることや、「出る杭」になることを奨励しています。楽しく、ユニークな方法によって、革新的料理が生まれる様子が伝わってきます。

 3つ目は、イスラエルの製造企業で実践される創造性向上のシステムを紹介しています。イントラネットプラットフォームを開発して、従業員にアイデアを提出させ、マネジャーが逐次評価することで、インセンティブを働かせるという方法で、仕組みによって社員の意識を変えていくのです。

 特集4番目は、元ソニー副社長(現サイバーアイ・エンタテインメント社長)の久夛良木健氏に、イノベーションを生み続けてきたソニーの組織文化と、それでも存在した限界を超えて「プレイステーション」という画期的製品を創造できた理由や経緯、そして今日の活動について伺いました。

 それは企業という枠組みを超えたイノベーションの方法で、言わばオープンイノベーション。いままさに必要な経営モデルです。

 優れたリーダーが事業を成功させ、創造的な組織文化を醸成しても、次第に組織が巨大化し、市場変化に対応できなくなり、かつては効率的であった官僚制が桎梏となり、活力が失われてきます。

 その流れを克服し、再び活力を取り戻した中国のハイアールを論じるのが特集5番目の論文。名著『コア・コンピタンス経営』の著者、ゲイリー・ハメル氏らしい鋭い分析です。

 とはいえハイアールの復活は、卓越したリーダーシップに依る部分が大きい。では、一般企業が組織の壁を超えて、いかにイノベーションを生み続けるか。その方法について詳細に提言するのが特集6番目の論文です。多くの企業で深刻な問題になっている「サイロ化」による壁を、いかに超えて、イノベーションを起こしていくか、について4つの方法を提示しています。