『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』では毎月、さまざまな特集を実施しています。ここでは、最新号への理解をさらに深めていただけるよう、特集テーマに関連する過去の論文をご紹介します。

 2019年8月号の特集タイトルは「ムーンショット」である。

 多くの企業がイノベーションを希求しながら、その実、漸進的思考から抜け出せずにいる。なぜ、もっと大きく有意義な考え方ができないのだろうか。ジョン F. ケネディ米大統領が提唱し、計画から10年足らずで実現した人類の月面着陸プロジェクト「ムーンショット」から半世紀。今日のR&Dや企業経営にこそ、大いなる挑戦が求められている。

 FractaCEOの加藤崇氏による「ムーンショット経営で世界を変える」では、グーグルに対してヒト型ロボット企業の売却を成功させ、さらに米国シリコンバレーを拠点に、世界の水道管劣化という大きな課題に取り組む、連続起業家(シリアルアントレプレナー)の筆者がムーンショット経営の要諦を明かす。なぜ、いま経営にムーンショットの考え方が必要なのか。

 INSEAD助教のネイサン・ファー氏らによる「ムーンショットを構想する方法」では、認知バイアスを回避し、イノベーションを実現する方法を提示する。なぜ「ムーンショット」のような、もっと大きく有意義な考え方ができないのだろうか。創造性を抑制している足かせがあるからである。それは、私たちの認識をゆがめ、さまざまな可能性を見えなくするバイアスである。目指すべき方向を新たに検討する際、人は認知バイアスにはまってしまい、現状しか見えず、より価値の高い機会に目が向かなくなる。

 宇宙飛行士であり、東京理科大学 スペース・コロニー研究センター長を務める向井千秋へのインタビュー「宇宙への夢を語ることで科学技術は進歩する」では、大きな夢を語ることの意義が示される。ユーリイ・ガガーリンが史上初の有人宇宙飛行を実現して以来、人類は驚異的なスピードで宇宙開発を進めてきた。人間を宇宙空間に送り出し、重力も大気もない極限の環境に適応させるべく、宇宙開発には時代の最先端の知見が凝縮されている。その研究成果は、宇宙のみならず、地上の生活にも大きな恩恵をもたらしてきた。国や企業が壮大な夢を語り、分野を超えた才能が集結してその実現を目指すことで、科学技術は進歩する。

 ウイルス学者であり、北海道大学教授の高田礼人氏へのインタビュー「人類史上、最も危険なウイルスに挑む」では、高田氏によるエボラ研究の変遷とその成果に加えて、エボラ出血熱の治療薬開発という前人未到の挑戦が語られる。エボラ出血熱はアフリカを中心に猛威を振るい、一度の流行で1万人以上の死者を出すこともある。感染時の致死率は最大で90%に上り、その原因となるエボラウイルスは「人類史上、最も危険なウイルス」と称される。ウイルス学者の高田礼人氏は長年、その感染メカニズムの解明に挑み、世界で初めてエボラウイルス全種に有効な抗体を発見するなど、これまでにいくつもの成果を残してきた。

 物理学者であり起業家のサフィ・バコール氏による「イノベーションの方程式」では、企業が急進的なアイデアの受容から排除へと転換するモデルを明らかにし、それを制御する4つのパラメーターについて論じる。企業の規模が極めて大きくなっても、急進的なイノベーションを確実に実現し続ける道筋を提示する。イノベーティブな組織をつくるカギは、企業文化にある──。多くの書籍で書かれてきたことだが、はたしてこれは本当だろうか。探索的で、遊び心があって、ミスに寛容な組織であっても、業績が下がることがある。優秀な人材と最高の目的が揃った優れたチームであっても、ある時から素晴らしいアイデアを潰すようになることがある。