『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』では毎月、さまざまな特集を実施しています。ここでは、最新号への理解をさらに深めていただけるよう、特集テーマに関連する過去の論文をご紹介します。

 DHBR2019年10月号の特集タイトルは「戦略採用」である。

 業種・業態を問わず、激しい人材争奪戦が繰り広げられている。エージェントに頼ったり、先端テクノロジーを導入したりする企業が増えているが、人的資源が競争力の源泉であるとはいえ、やみくもな投資が許されるわけではない。より戦略的に採用活動を進めることが不可欠である。

 ペンシルバニア大学ウォートンスクール教授のピーター・キャペリ氏による「間違いだらけの人材採用」では、企業がいま直面する課題を掘り起こし、戦略的な採用施策を提言する。新たにマネジャーが必要になった場合、かつては社内異動や昇格が多かったが、今日では社外から採用するケースが主流である。そのため人材採用企業を活用する機会が増えている。一方、関連テクノロジーは日進月歩で、的確な活用が必須である。こうした変化により、採用コストは増大。採用方法の再検討が急務である。

 ゴールドマン・サックス人事部門グローバルヘッドのデーン E. ホームズ氏による「ゴールドマン・サックスはなぜ面接手法を変えたのか」では、毎年50万人の応募がある世界有数の金融機関ゴールドマン・サックスの採用方法の変化が示される。非凡な人材こそ最強の競争力と知る同社が、採用方法を劇的に変更した。デジタル時代へと経済環境が移行する中、採用での競争相手がテクノロジー企業やスタートアップへと変わり、従来とは異なる才能獲得競争が激化しているからだ。ビデオ面接と構造化面接という、新たな選別法の詳細と効果を当事者が詳述する。

 トロント大学ロットマンスクール・オブ・マネジメント名誉教授のロジャー L. マーティン氏らによる「職能部門も明確な戦略を持つべきである」では、職能部門においても戦略を持つことの意義を説き、フォーシーズンズの人材部門を例に、職能部門の戦略が事業に好影響を与えることを示す。かつて大企業組織の中心にあった総務、財務、人事、営業などの職能部門。しかし競争の激化に対応するために、各製品の戦略と責任を明確にする目的で製品別の事業部門が置かれ、職能部門は各分野の専門特化、効率性や整合性の向上を目指して中央に設けられるようになった。このように組織が進化していく中、戦略の理論と実務はもっぱら製品ラインに照準を合わせ、各職能分野はなおざりにされてしまった。

 ソフトバンク人事本部副本部長兼採用・人材開発統括部長の源田泰之氏による「ソフトバンクの採用は変わり続ける」では、前例に囚われず、果敢にPDCAを回し続けてきた新しい採用のあり方を惜しみなく明かす。売り手市場やエンジニア不足と騒がれる中、既存の採用手法を一から見直して成果につなげているのが、ソフトバンクである。通信事業の活性化と新規事業の創出の2軸へと、経営戦略が大きく変わる中で、採用責任者の筆者は、「受け身」であった採用戦略を「攻め」に転換した。新卒学生の対象マーケットを広げてみずから地方に出向いたり、インターンの活用を積極的に展開したり、人工知能を通じた採用プロセスを実施したりしてきた。

 メルカリ執行役員CHROの木下達夫氏による「メルカリが挑む世界中の多様な人材が活躍できる組織づくり」では、メルカリを名実ともにグローバル企業として飛躍させるために、木下氏が中心となって実行した、変革の具体的な取り組みを論じる。メルカリは2013年に創業したベンチャー企業にもかかわらず、わずか5年で上場を果たすと、いまや国内外で2000人近くの社員を抱える大企業となった。ただ、驚異的な速度で組織と事業を拡大したことにより社内制度、特に人事制度をグローバルレベルで十分に整備し切れていないという課題を抱えていた。