自己認識は、リーダーの能力を覚醒させるのに欠かせないスキルとして世界中で注目を集めている。EIシリーズ最新刊『セルフ・アウェアネス』発刊記念イベントに続き、自己認識の重要性をいち早く認識し、ラグビーの指導者や企業幹部の育成の場で実践する日本ラグビーフットボール協会のコーチングディレクターを務める中竹竜二氏にセルフ・アウェアネスの重要性や高め方を聞いた(構成:富岡修、写真:斉藤美春)。

高めるべきは「外的自己認識」

「セルフ・アウェアネス(自己認識)が高まると、リーダーは人間として成長し、リーダーシップを劇的に高められることができます。その結果、チームのパフォーマンスも大きく向上していくのです」。中竹竜二氏は、改めてその重要性を説く。

中竹竜二(なかたけ・りゅうじ)
公益財団法人日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター、株式会社チームボックス代表取締役、一般社団法人スポーツコーチングJapan代表理事。1973年、福岡県生まれ。早稲田大学人間科学部に入学し、ラグビー蹴球部に所属。同部主将を務め全国大学選手権で準優勝。卒業後、英国に留学し、レスター大学大学院社会学部修了。帰国後、株式会社三菱総合研究所入社。2006年、早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任。2007年度から2年連続で全国大学選手権優勝。2010年、日本ラグビーフットボール協会初代コーチングディレクターに就任。2012年より3期にわたりU20日本代表ヘッドコーチも兼務。2014年、リーダー育成トレーニングを行う株式会社チームボックスを設立。2018年、スポーツコーチングJapanを設立、代表理事を務める。
セルフ・アウェアネスに関する監訳書に『insight』(英治出版)がある。

 組織心理学者のターシャ・ユーリックの研究によれば、自己認識が高い人は稀有で、ユーリックが実施した調査対象者のうち自己認識が高いとする条件を満たす人は全体の10~15%と少なかった。ならば、少数であることを逆手に取り、先んじて自己認識を高められれば、強い「武器」となる可能性がある。

 自己認識が高いメリットを挙げる前に、まずは低いことで生じる弊害を述べよう。

「たとえば、キャリア設計ひとつとってもそうです。いくら素晴らしいゴール(目標)を設定したところで、今の自分の能力や置かれている状況の認識が間違っていれば、スタート地点が定まりません。そうなれば、ゴールに至る道がわからずに到達できないか、仮に到達できたとしても、かなり遠回りとなってしまい、無駄なリソースや時間を費してしまうことになるでしょう」(中竹氏)。

 中竹氏が監訳したユーリックの著作『insight』によれば、自己認識には、内省などで自己理解を深める「内的自己認識」と、他者の認識を知ることで自己理解を深める「外的自己認識」の2種類あるという。

「秀逸なのは、両者が高くて初めて自己認識が高い、と定義したことです。リーダー育成においても、内的自己認識を高めるだけでは不十分であり、外的自己認識を高めることがリーダーシップの向上に欠かせないポイントとなっています」(中竹氏)。

 自己認識が高いリーダーは、自分が何者であるか、何を成し遂げたいかを知っており、さらに他者の意見も求めて重視できる状態にあり、組織のマネジメントやリーダーシップにおいて力を発揮できると中竹氏は語る。
「他者がいて初めて得られる外的自己認識は、内省では得られない自己に気づかせてくれます。それがきっかけとなり、新たな強みを認識できる場合も多いのです。また、多くの他者と関われば関わるほど、外的自己認識の機会が増え、発見できる強みも多面的に増えていくのです」

 外的自己認識が高い人は、強みの認識や発揮につなげられるのはもちろん、時には、弱みすらも強みへと転じることができる。

 樋口猛監督(当時)が率いるラグビー高校日本代表は、ハンデとされる身長の低さを「強み」ととらえ、元々の強みである「素早さ」を組み合わせて、巨漢揃いの外国人のひざ下をタックルするという、常識外の守備を実現した。この「狂気に満ちた守備」との異名を取ったチームは、2016年、強豪のU19スコットランド代表を撃破するなどの大金星を挙げた。