デジタル・ディスラプションへの対抗策として、デジタル企業の買収を検討する企業は多い。しかしこれは、従来型のM&Aとまったく性質を異にする。過去の知見が役に立たないだけでなく、割高なプレミアムを支払ってしまうことも少なくない。さらには、買収後の統合も、従来とはまるで異なる。これらの課題に対し、本稿では既存のアプローチを見直す3つの視点を提供する。


 多くの合併・買収(M&A)を経験してきた企業であっても、初めてのデジタル企業の買収は新たな学びの場となる。デジタル企業の買収は、全社戦略の実現やデジタル変革を加速させるために行われる。広告代理店であるピュブリシス・グループによるデジタル広告専業のサピエントの買収(2014年・買収額37億ドル)はその一例で、伝統的な広告会社からデジタル広告会社へと進化することが目的だった。

 しかし、デジタル・ディスラプション対策としてM&Aに乗り出した多くの企業は、デジタル企業のM&Aが従来型のM&Aと異なる性質を持つだけでなく、過去のM&Aに関する知見がまったく役に立たない可能性に気づく。また、確度が低いのに、早期の価値成長を見込んで割高なプレミアムを支払っている可能性も高い。

 デジタル企業のM&Aに関する各種の課題に対して、準備を整えている経営陣は少ない。ベインが欧州で実施した、M&A担当の経営幹部へのインタビューによると、彼らの4分の3が、デジタル・ディスラプションによって自社のM&A戦略が大きな影響を受けた、あるいは全面的な修正を迫られたと語った。ところが、対策の習熟度に関しては、「習熟している」または「上級レベル」にあると回答した経営者はわずか11%にとどまった。

 では、習熟度を高めるには何が必要なのだろうか。デジタル企業のM&Aを適切に行う上で、多くの会社は(1)資金調達、(2)デューデリジェンス、(3)買収後の統合(PMI)の3つの点で既存のアプローチを大幅に見直す必要がある。