『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』では毎月、さまざまな特集を実施しています。ここでは、最新号への理解をさらに深めていただけるよう、特集テーマに関連する過去の論文をご紹介します。

 DHBR2020年6月号の特集タイトルは「実験する組織」である。

 ネットフリックス、フェイスブック、アマゾン……成長を加速させるデジタル企業は、ユーザーにA/Bテストなどの「実験」を積み重ねて、仮説検証のサイクルをスピーディに回している。そのポイントは、データを尊重する文化を組織全体にいかに浸透させるかにある。

 ハーバード・ビジネス・スクールのステファン・トムク教授による「ビジネス実験を重ねる文化が企業を成功に導く」では、ブッキング・ドットコムの成功事例をもとに、実験文化の構築と効果を分析した。

 多くの企業は失敗回避という価値観が根強く、ビジネス実験を受け入れがたいのが実情である。しかし、実験を活用する企業文化には多くの効用がある。

 新製品の発売や既存製品の改良に踏み切るべきか否か、踏み切るならいつが最適か、未開拓の市場や顧客セグメントに進出すべきかどうか、どのように進出すべきか、各事業に資金をいかに配分すべきか──。多くの企業にとって、A/Bテストはいまや製品開発サイクルに欠かすことができないものである。

 ただ、企業は実験を実施する際に深刻な間違いを犯すことが多い。ハーバード・ビジネス・スクールのイヤボール・ボジノフ助教授らによる「A/Bテストの3つの落とし穴を回避する方法」では、ネットフリックスとリンクトインで成果を上げた手法について紹介する。

 ピンタレストでエンジニアリング担当シニアバイスプレジデントを務めるジェレミー・キング氏は、30年近くテクノロジー分野で働き、とりわけ直近の15年間は実験とデータの活用によって、企業をよりよい意思決定に導いてきた。

 同氏へのインタビュー「A/Bテストはますます効果的になっている」では、eBay、ウォルマート、ピンタレストでの経験を例に、実験的手法の利点や、その手法を支えるために必要な組織文化について語られる。

 仮説・検証を繰り返して新規事業の開発やイノベーションにつなげる、言わば「実験型組織」になるためには何が必要だろうか。1995年の創業以来、カカクコムやツイッターなどさまざまなスタートアップを輩出・支援してイノベーションへと導いてきたデジタルガレージの試みに、数多くのヒントがある。

 デジタルガレージの大熊将人氏と渋谷直正氏は、実験型組織になるためには、裁量を与え、期間を決めて自由に開発のできる環境、言わば「砂場」をつくることが重要だと述べる。「新規ビジネスを高速で開発する実験型組織のつくり方」を通じて、試行錯誤を行うために欠かせないデータ活用の視点も含めて、実験型組織のつくり方におけるポイントについて明かす。

 日本はこれまでモノづくりを武器に世界を席巻してきたが、製品・サービスの高性能化や低価格化が進む中、モノの価値による差別化はますます困難になった。顧客ニーズの多様化が進み、それが目まぐるしく変化する環境で勝ち残るには、プロダクトアウトではない顧客起点のイノベーションが求められている。

 それを実現するためには、組織そのものが時代に応じて変化する「実験する組織」への変貌が欠かせないが、日本特有の制度や文化がそれを妨げている。ボストン コンサルティング グループの竹内達也氏と岩渕匡敦氏による「日本企業が『実験する組織』に変わる方法」では、日本企業の組織変革を阻む5つの壁を明らかにし、それぞれの壁を乗り越える具体的な方法を示す。