慣習に縛られた業界を無料サービスで突破
「誰を呼ぶか、席次は? 引き出物を何にするか、音楽をどうするか、親へのあいさつは? など、結婚式の段取りは非常に煩雑。このアプリではそのタスク管理ができる。これって住宅ローンに似ているなと思ったのがきっかけになりました」
不動産、金融、ユーザーの三者が面倒と感じながら、誰もやっていなかった住宅ローン業務。あらゆる領域でDXが進む中、あとは誰がやるのかだけの手つかずの領域に踏み込んだのがiYellだった。しかし、想定外の困難が立ちはだかる。住宅ローン案内業務は住宅事業者が行うものという、業界の固定観念、慣習だ。また、エンドユーザーからも、一生モノの高額な買い物をネットで済ますことに対して拒否反応が現れた。
窪田氏は、このアプリを使ってほしいという一心で、2年以上にわたり不動産会社に無償でサービスを提供し続けた。やがてその便利さに気づいた会社が次々と増え、取り扱う銀行も拡大。エンドユーザーに対しても、住宅ローン専門のスタッフがサポートデスクとして寄り添い、不安感の解消に努めていった。窪田氏は言う。
「不動産テックの重要なキーワードは『半歩』先のテクノロジーだと思っています。先進技術だけでは、家を買おうとする人の気持ちをつかむことはできません」
「何をするか」ではなく
「誰とするか」が一番大切
さらに窪田氏は短期間で成長カーブを描くことができた理由を「会社のカルチャーの醸成に力を入れ、人を大切にしてきたから。そしていい仲間が集まったから」という点を強調する。
「3人でiYellを始めようとしたとき、どんなビジネスをやるかではなくて、どんな会社にしたいか、誰と一緒に仕事をしたいか、そして誰を幸せにしたいかということばかり語り合っていました」
2016年の創業時のメンバーは7人だったが、今でも中核として活躍。それから7年経つ今も、経営陣は毎日2時間、企業文化に関する会議を行っているという。
「もちろん、カルチャーよりもビジネスについて話し合うほうが利益は上がるでしょう。しかし、私たちがやりたいのは、社員が楽しく仕事をして、売り上げや利益が伸びていく、これまで世界に類のない欲張りな会社です。そんな会社が千年続くことを目指しています。iYellがある地球とない地球があったとしたら、ある地球を選んでもらえるような」
そう窪田氏は熱っぽく語る。
業界初となる住宅ローン業務支援テックで、先頭を走るiYell。今後は、住宅ローンを核にしながらそれすらも超えていきたという。具体的には、つなぎ融資などのファイナンス領域やリフォーム領域、設備延長保証領域、住み替え支援領域、住宅業界特化のビジネスチャット領域など、住宅事業者が抱えるさまざまな課題に対する支援だ。また、個人向けのサービスとして、個性的な物件を面白く紹介するYouTubeチャンネル「ゆっくり不動産」のマネジメント業務も開始し、登録者数70万人を誇る。
住宅ローンスタートアップ企業からフィンテックスタートアップ企業へと成長していくiYellから、今後も目が離せない。
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