館長はJR東海の技術部門出身者、年間約40万人を集める「リニア・鉄道館」の魅力とは何か入館してまず目に入るのは、蒸気機関車、新幹線、そして超電導リニアの三つの車両。いずれも当時世界最高速度を記録した車両。速さを求め、速さに憧れた人々の思いを想起させる

リニア・鉄道館という館名からは、リニア中央新幹線のPRを目的とした理解増進施設であるかのような印象を受けるが、実際には「超電導リニア」を前面に押し出すことなく、鉄道全般を扱っている施設だ。リニア・鉄道館の岡部仁館長は同館の設置の目的について、「リニアに関する展示はありますが、ここではあえてリニア中央新幹線のPRを目的としていません」と言い切る。

企業のリソースを活用した
体験の提供が生み出す価値

「当館は高速鉄道の技術の進歩が展示の中心。鉄道の普及とともに人々が速さを求め、それに応えて高速鉄道技術が進歩してきたことを紹介しています。同時に、鉄道が社会に与えた影響を、文化、経済、生活の視点で学ぶこと。これをコンセプトとしています」と施設の目的を語る岡部館長。体験とともに鉄道への親しみと理解を深める、あくまで文化施設という位置付けだという。さらに、企業ミュージアムならではの鉄道との関わり方にも言及する。

「皆さん、鉄道に乗る機会は少なくないと思いますが、安全上、車体には『近づかないでください、触れないでください』と注意を促されます。しかしここでは車両に近づいて触ることもできるし、車体の下をじっくり見ることもできる。車体を軽くたたけば、コンコンと音がする。時代によって車両の素材が異なるので、音も違う。これが実際の車両に触れる意味で、われわれが当館で最も感じてもらいたいところなのです」(岡部館長)

館長はJR東海の技術部門出身者、年間約40万人を集める「リニア・鉄道館」の魅力とは何か(左)それぞれの時代を代表する車両が並ぶ。どの車両も数分後には発車しそうな雰囲気だ。手前は1961年に運転を開始した特急車両 キハ82形式気動車で、展示は1987年当時を再現している

(右)高速鉄道技術の進歩の歴史や、安全・高速・快適を支える仕組みを伝える「鉄道のしくみ」のコーナー。「新幹線の一日」のモニターでは、始発から夜間作業までの業務を分かりやすく解説している

列車の運転を疑似体験できる運転シミュレータは、人気の体験展示だ。列車を発車させ、次の駅の規定位置通りにピタリと停車させる体験だ。これが案外難しい。実際の車両と同じ形状のハンドルは手になじみ、しっくりと操作しやすいのが不思議に感じたが、実はこれは体験のために製造した装置ではなく、実際に運転士の訓練に使われているものと同じ装置だ。在来線の運転シミュレータは実に8台と豊富で、1980年代ごろまで主流として使われていたブレーキとアクセルを別々のハンドルで操作する2本ハンドル式が4台、比較的新しいタイプの1本ハンドル式が4台あり、休日には列もできる。見習い編、練習編、達人編と「熟練度」を選択でき、晴れや雨、昼間、夕方、夜間など、運転時の条件を自ら選べる仕掛け。楽しみながら、運転士の技能を感じることができる。来館者の興味や関心に合わせて誰でも楽しめるように作られ、慣れた人なら難しいモードを選択できるためリピーターも多い。

館長はJR東海の技術部門出身者、年間約40万人を集める「リニア・鉄道館」の魅力とは何か在来線シミュレータ。見習い編、練習編はガイダンス付きで初心者でも楽しめる。達人編は運転時刻の厳守まで求められる本格的なもの。「修了証」には励ましの言葉も。このほか車掌の経験ができる車掌シミュレータもある

あらゆる世代、興味、関心を持つ人々に応えられるのが同館の強みの一つ。例えば、1921年に製造された木製車体のモハ1形式電車の内部に入ると、床材の塗料や壁材の木材など往年の列車らしい匂いを感じる。ある層には懐かしく、ある層には新鮮。窓や手すりの意匠など、当時の人々が列車にかけた手間を目の当たりにすることもでき、鉄道ファンでなくとも往時の姿を感じることができる。