複合的な戦略の拠点となり得る
企業ミュージアム

館長はJR東海の技術部門出身者、年間約40万人を集める「リニア・鉄道館」の魅力とは何か歴代の車両やN700系新幹線、超電導リニアの模型が走る大型ジオラマ。鉄道の24時間をテーマとし、20分間の演出では、朝、昼、夕方、夜間が表現され、夜間には保守作業用の車両も現れる。沿線の生活風景も精緻に再現されている

リニア・鉄道館には、一般の博物館とは異なる企業ミュージアムならではという強みがまだまだある。実は岡部館長はJR東海の技術部門の出身だ。鉄道車両のメンテナンスを中心に経験を積んできた業務の専門家である。

岡部館長のほかにも、施設や電気、運行など鉄道運行のスペシャリストがそろっている。それこそが企業ミュージアムの貴重なリソースなのである。現副館長は運転士や車掌などが所属する運輸部門の経験者であるほか、線路や電気に関わる設備の担当者や車両の担当者など、JR東海での業務経験が豊富な社員が同館の運営に関わる。

現在この施設には案内や安全管理をするスタッフが合計34人ほど勤務しているが、そのうち9人がJR東海で実際に鉄道業務に携わっていた社員だ。彼らが来館者と直接触れ合い、展示の解説を行う中で、自らの専門に近い部分ではおのずと言葉に力がこもる。これこそが、社会が期待する企業ミュージアムのポテンシャルといえる。

このような経験は、ミュージアム勤務が終了して次の部署に異動した際に生かされる。ミュージアムでの勤務は、顧客が自社にどのようなイメージを持ち、何を期待しているのか、地域にどうコミットできるのかを知ることができる、またとない業務経験となるからだ。

館長はJR東海の技術部門出身者、年間約40万人を集める「リニア・鉄道館」の魅力とは何かJR東海の技術部門出身の岡部館長

地域との協働という文脈の中でも、企業ミュージアムの多機能性が発揮される。リニア・鉄道館がある名古屋市・金城ふ頭は、ものづくり中部を支える港湾物流機能を生かし、同館のほか、国際展示場やアミューズメント施設(レゴランド・ジャパン・リゾート)、商業施設(メイカーズ ピア)などを含む複合的な都市開発の拠点として構想され、地域の活性化の重要拠点となっている。こうした環境の中で、鉄道の利用促進を含むJR東海への理解、結果的にリニア中央新幹線へのまなざしの醸成を含むブランディングの道筋が描けるのである。同館の場合は社会教育施設としての社会貢献のほか、観光や交流の拠点としての地域の活性化、鉄道車両やその他資料のアーカイブ、国内外の要人の案内など、企業カルチャーの表現の場として機能しているといっていいだろう。

「現在の来館者の約8割は小さい子どもを持つファミリー層です。中高生になると企業ミュージアムを訪れる機会は減っていく傾向がある。しかし成長に伴って、さらに深い学びや意味のある体験が必要なはず。今後は中高生の修学旅行や校外学習での利用を促進し、現在は十分にミートできていない中学生、高校生が来館する機会を増やしていきたい」と意気込みを語る岡部館長。

企業リソースが豊富な上、企画展やワークショップなどのアイデアをスタッフが出し合って形にしていく、自由な風土も強みというリニア・鉄道館の、新たな展開が期待される。

館長はJR東海の技術部門出身者、年間約40万人を集める「リニア・鉄道館」の魅力とは何か(左)超電導リニアのしくみやその技術を解説する超電導リニア展示室。ミニシアターでは、リニア車両の内部をイメージした室内で山梨リニア実験線のCG映像を使った走行体験ができる

(右)100系新幹線に連結していた食堂車の内部。1階にキッチンがあり、客席は2階。現役当時は大きな窓からの見晴らしを楽しみながら食事ができ、この車両が連結されている列車を選んで乗車する人も多かった
●問い合わせ先
東海旅客鉄道(JR東海)
リニア・鉄道館
愛知県名古屋市港区金城ふ頭3-2-2
TEL:052-389-6100(10:00~17:30 ※休館日を除く)
URL:https://museum.jr-central.co.jp/