豊永 私たちカルティベラは、沖縄に本社を置くアグリテック(農業技術)のスタートアップです。技術の実装の場として、2017年三重県多気町に農業生産法人ポモナファームを設立し、トマトをはじめマイクロリーフやとうがらしなどを栽培しています。
私たちが今チャレンジしているのが、野菜を湿度で育てる「Moisculture(モイスカルチャー)」という特許技術です。特殊な繊維層の人工培地に水分を染み込ませ、そこから気化させた水分で野菜を育てます。繊維層は5ミリメートルほどの厚さですが、自然界の土の10〜15センチメートル分を再現することが可能です。
このため、世界中どこでも場所を選ばずに野菜を育てることができます。繊維層の中で湿気中根という根を培養すると水の吸収効率が高まり、必要な水の量を従来の栽培法の10分の1程度に抑えることができます。また農業排水も出ません。水不足、土不足、さらには農業による環境汚染などの課題の解決にもつながります。
三村 まさに大きなイノベーションを実現されていますね。豊永さんが起業された経緯はどのあたりにあったのでしょうか。
豊永 大学では考古学を専攻し、カンボジアの文化財保護の研究などに携わっていました。ところが、遺跡が観光地化して観光客が増えると遺跡が劣化してしまいます。また周囲で農業が発達すると地下水脈が下がって地盤沈下が起き、遺跡が傾いてしまうこともあります。
農業は、世界中の淡水の70%を使用しているのが現状です。そういったことを目の当たりにしたことから、「環境負荷の低減」が、自分の中で大きなテーマになっていったのです。
三村 私も農業とは違う異業種の出身で、もともと制御工学と都市計画をやっていました。どちらも、ある未来を予測し、それが実現されるにはどうするかを考えます。
一般的に多くのビジネスが、課題設定の難しさに直面しますが、アグリビジネスの課題設定においては、テーマがあふれているといえます。豊永さんは「環境負荷の低減」に着眼されて、どんな技術が必要なのかバックキャストしてご自身の技術開発をされたのだと思います。
イノベーターは農業生産の川上から川下までのバリューチェーン全体をアグリビジネスとして捉える必要がありますね。そういった観点で見ると、アグリビジネスの市場規模は国内だけで113兆円ともいわれ、大きな可能性があります。
AFJ日本農業経営大学校
イノベーター養成アカデミー 主任教授
三村 昌裕 氏
1969年、長崎市生まれ。東京工業大学で都市計画を専攻。大学院修了後、2001年に三村戦略パートナーズを設立。大企業支援やスタートアップ上場経験を通して、社会課題解決型事業創造を体現する北海道大学発ベンチャー、ポーラスター・スペースを設立。農業課題解決事業として経済産業省J-Startupに選定される。現在、人と組織を軸に企業のハイインパクト事業創造の再現性ある取り組みを支援する「仕組化」を推進している。
豊永 イノベーションを起こすためには、どのような付加価値を提供できるかが大切だと思います。私たちが生産しているトマトは決して高額なものではありません。地域の学校の給食に使っていただけるくらいの価格設定にしています。では何が私たちの付加価値かというと、私たちは「作型(さくがた)戦略」と呼んでいるのですが、他の方々が作れない時期にトマトを生産できること。通年栽培を可能とする技術の構築こそがビジネスにつながっています。
また地球温暖化により、夏に野菜を育てるのは難しくなっていますが、私たちのMoiscultureの技術なら植物は35度にも耐えることができます。野菜の旬は大切にしたいのですが、地球温暖化などの気候変動対応に焦点を合わせると、そこでも付加価値となるでしょう。
アグリビジネスの参入のハードルを下げることが必要
——アグリビジネスを始めたいと考える企業や人はいても、なかなか参入のハードルは高いように思われます。実際のところはどうですか。