中距離帯と大型コンテナの拡大に注力
かつてないレベルで注目されるJR貨物が現在、営業戦略として注力しているのが中距離帯でのシェア拡大だ。元来、貨物鉄道は長距離輸送で強みを発揮するといわれており、陸上貨物輸送における鉄道のシェア(輸送量ベース)では、輸送距離1000キロメートル以上で50%以上の分担率があるものの、400~600キロメートルの中距離帯では5%弱まで下がる。しかし、トラックドライバーの労務管理が厳格化される今年4月以降は、1人のトラックドライバーが運転できる距離が500キロメートル前後になるため、中距離帯での鉄道輸送ニーズが高まるとみられる。これを受け同社では、3月16日に実施したダイヤ改正で東京~大阪間の速達化を図ったほか、東京~広島間の輸送力を増強することでニーズに対応した。「現状で分担率が低いということは、逆にトラックからのシフトの余地が大きいということでもあります」と期待を示す。
また、31フィートコンテナを中心とした大型コンテナの利用拡大にも力を入れていく。これまでは12フィートコンテナが主力だったが、10トントラックに積載した荷物をそのままシフトできる31フィートコンテナの利便性の高さを生かし、トラックからの転換を進めやすくする狙いだ。政府も昨年末に決定した補正予算で31フィートコンテナへの支援措置を設けた。「今後、国からの支援を活用し、利用運送事業者の皆さんとも連携しながら、お客さまのニーズをきちんと把握した上で、最適なコンテナの保有の在り方、大型コンテナに対応した荷役機器の配備、貨物駅におけるコンテナ留置スペースの確保などについての検討を進めて、31フィートコンテナの取扱量の拡大に取り組んでいきます」。
災害対応強化でコンテナ船を保有
ただ、貨物鉄道が新たな物流の担い手として利用者の信頼を得るためには、乗り越えなければならない課題もある。その一つが災害時の対応力だ。近年は大雨、台風など自然災害が頻発・激甚化しており、貨物列車が走行する在来線インフラが被害を受けて運休を強いられることも少なくない。その際に求められるのが、トラックや船舶による代行輸送をいかに早期に立ち上げられるかである。高橋執行役員は「これまでの教訓なども踏まえ、社内で代替輸送シミュレーションを強化しているほか、代行トラックの駐車スペース確保やコンテナホームの拡幅など貨物駅の改良にも取り組んでいます」と語る。
また、一歩踏み込んだ取り組みとして、大手物流会社と連携して内航コンテナ船を共同保有することを決め、7月に竣工の予定。これにより、他社船をチャーターする場合に比べて手続きにかかる時間がほぼ半分に短縮され、早期の代行輸送体制の確立が可能になる。「さらに、トラックや船舶輸送を“通常時から使用”しておくフェーズフリーの取り組みについても検討しています。また、予防保全の観点から在来線インフラの強靱化へのサポートを国にお願いしていきます」と説明する。
特徴を生かして最適な「運び方」を実現
政府は昨年10月に策定した「物流革新緊急パッケージ」で、「鉄道、内航の輸送量・輸送分担率を今後10年程度で倍増」というチャレンジングな目標を掲げた。高橋執行役員は「貨物鉄道に対する高い期待の表れであり、身が引き締まる思いです。当社の自助努力でできることを精いっぱいやっていくことは当然ですが、“倍増”を実現するためには関係者の幅広い協力が不可欠です」と官民一体となったサポートの必要性を強調する。
「大切なことは、物流全体の生産性を向上させて危機を乗り越えることであり、輸送モード間の競争ではありません。その意味で、これからはそれぞれの輸送モードの特性を生かして最適な“運び方”を実現していくモーダルコンビネーションの考え方が大事になっていくでしょう」と展望する。