日本の相続税は世界的に見ても高い水準にある。相続税率に超過累進課税制度が採用されているため、特に富裕層には多額の相続税が発生する。例えば資産が6億円超あると、最高税率は55%。仮に資産を相続するのが子ども1人の場合、6億円×55%-7200万円(控除額)=2億5800万円を相続税として納めることになる(表1参照)。資産の半分近くもの相続税が発生するわけだ。フランスの最高税率は45%、英国と米国は40%であり、他の主要国と比較しても、日本が富裕層の相続に厳しい国であることが分かる。
ちなみに「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」の基礎控除額も、他国と比べるとかなり低い水準だ(表2参照)。世界には相続税が存在しない国がある。中国やシンガポール、オーストラリアやカナダなど。これらの国々では相続での税負担が一切発生しない。
ただでさえ厳しい日本の相続税だが、今後さらに重くなる可能性がある。格差社会の広がりを踏まえ、社会の公平性を保つため、政府は相続税の負担を重くすることで、富の再配分機能を強化しようとしている。加えて、少子高齢化の進行で社会保障費の増大が財政を圧迫しており、その財源として相続税の増収に期待が寄せられている。
こうした状況にもかかわらず、相続対策に関心のない富裕層は少なくない。「多額の相続税を課税されたとしても、今と変わらず豊かな暮らしができるはず」「対策をするとしてもまだ元気だ。もう少し老いてからでも大丈夫だろう」と考えるからだ。だが相続対策を一切講じずに本人が亡くなってしまうと、残された家族は想定外の税金に直面することになる。
富裕層の資産戦略にはさまざまな方法があるが、相続対策には不動産の活用が有効になる。相続税の計算では不動産の資産評価額が実際の市場価格より低く見積もられることが多く、税の負担額を減らすことができるからだ。また不動産を活用した財産の継承は、残された家族が安心して資産を受け取り、安定した運用ができる環境をつくり出す。
相続税制が厳しくなる中、不動産で資産を守り受け継ぐ方策は、より一層重要になっている。