マグレイスは前々回の記事「もはや業界分析は有効ではない?」のなかで、戦略策定における業界分析の重要性に疑問を投げかけている。今回はさらに考察を進め、家計に占める通信費を例に挙げて競争の本質に迫ろうとしている。


「業界という枠組みは、戦略分析における基本要素である」――最近私は、この原則がもはや有効ではないかもしれないと考えている(前々回の記事を参照)。コンピュータ会社がエンタテインメント事業に進出したり、インターネットとテレビが人々の時間をめぐって争ったり、ソーシャルゲームが伝統的なゲーム会社の収益を横取りしたりするなど、興味深い状況が見られる。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、従来の業界間の境界が曖昧になっている状況を報じている。2012年9月28日付の記事“Cell Phones Are Eating the Family Budget”(携帯電話が家計を食いつぶしている)では、夫婦や家族がふくれ上がる携帯電話利用料を捻出するために、外食や娯楽、自動車、衣料品への支出を抑えている事例を紹介している(英文記事はこちら)。つまり、かつて地元のレストランや衣料品店、その他の娯楽に費やされていたお金が大手の携帯電話会社に流れるようになったといえる。同紙は次のようなデータも示している。

「この傾向によって、ベライゾン・ワイヤレスやAT&Tなどの通信事業者が多大な恩恵を受けている。金融機関UBS AGのアナリストによれば、米国のキャリア各社は、2007年にモバイルの電子メールやウェブ閲覧などのサービスで220億ドルの収益をあげていたが、2011年にはデータ通信による収益は590億ドルに跳ね上がった。2017年には、さらに年間500億ドル増えているだろうとUBSは予想している。」

 ここで情報を整理してみよう。UBSのアナリストによれば、2017年に消費者の可処分所得のうち1000億ドル以上が、かつて彼らがお金を費やしていた他の製品やサービスではなく、通信事業者(キャリア)の懐に入るという計算になる。2017年にはさらに新しいイノベーションが登場しているはずだが、現時点でさえ、スマートフォン2台と通常の携帯電話2台を所有する4人家族の場合、月々の利用料は300ドルを超えるものと考えられる。さらに、平均的な家庭における通信費を把握するためには、インターネットと有料テレビ放送の料金も加算する必要があるだろう。