自分の能力を、みずから正確に知ることは難しい。同様に、経営者は自社の本当の強みに気づいていない場合が多いとアンソニーはいう。自社の成長を加速させるかもしれない、真の組織能力は何か――これを外部の視点から問うてみよう。


 車を運転する人の9割が「自分は平均以上の運転技術を持っている」と考えている――これは、統計上ありえない数字の例としてよく言及されるものだ。また、確証バイアス、認知的不協和、そして根本的な帰属の誤りなどは研究によって立証されている。これらが意味するのは、私たちは世界をあるがままには見ておらず、自分たちが見たいものを見ているということである。

 企業とは人の集合体なので、みずからの組織能力と欠点について正しく把握できていないとしても無理はない。これは学術的な話ではない。ハーバード・ビジネスレビューに最近掲載された私の論文"The New Corporate Garage"(邦訳は本誌2013年8月号「スタートアップ4.0」)では、複製が難しい資産と起業家的な行動を結びつけて、大きなインパクトを生み出すことに成功した大企業の事例を解説している。自社にしかない資産を基にイノベーションを起こし成長を成し遂げる企業は、世界中のベンチャー企業との激しい競争を余儀なくされている企業よりも優位に立てるのだ。

 つまり、重要となる問いはこうである――「自社を特別な存在にしているのは何か」。この質問をすると、たいていは奇妙な沈黙が生まれ、その後に誰かが「わが社のブランドだ」と答えることになる。私はしれっとして、業界の新興企業から「御社のブランドをライセンスしてほしい」という電話が最後にかかってきたのはいつですか、と尋ねる(1度もない、というのがよくある返事だ)。次によく出てくる答えは「規模」である。しかし、規模は実際に利点をもたらす反面、マイナス要素も生む。ひどくゆっくりとした意思決定のプロセスや、柔軟性の欠如などだ。