グローバル経済の長期的なトレンドを見るうえで重要なのが、第2の分野「人口動態と富」であり、4つのメガ・トレンドが挙げられる。まず、日本においても顕著な「人口動態変化」から紹介しよう。2040年の世界を示すブーズ・アンド・カンパニーの好評連載、第6回。


 グローバル経済の長期的なトレンドを見るうえで重要な手がかりとなるのが、世界の人口増加に関する予測である。現時点での親世代の人口分布と出生率を手がかりにすれば、その子世代の人口分布あたりまでは予測が可能である。これに加えて、先進国の事例をもとに途上国の経済発展を予測すると、世界的な富の分配状況も推測できるようになる。こうしたデータ分析を活用することが、グローバル成長戦略立案の第一歩となりうる。

 今後の世界では先進国の人口が減り始め、富の分配の状況が変わり始める。この分野においてとくに注意すべきなのは、人口そのものの動きのトレンド(「人口動態変化」と「人口移動」)と、富裕化のトレンド(「富の再分配」と「ビジネスのグローバル化」)の両方が起きるということである。

第3のメガ・トレンド
人口動態変化(Demographic Change)

 国連やWHOなどの試算によれば、世界の出生数の上昇は2015年あたりでピークを迎えるが、人口増はなおも続く。1950年に25億人前後であった世界の人口は、2040年には90億人前後に達する(図表1参照)。

 地域別国別の人口比の変化は、世界のパワーバランスを変え、現在とは異なった風景を現出させる。現在の先進国各国の人口はおおむね減少あるいは現状のレベルに安定する一方、いわゆる新興国やアフリカ諸国の人口は大幅に増大する(同じく図表1参照)。人口の増加に比例して経済活動の規模が増大するわけではないが、人口増加を体験する地域は、生産地、消費地としての存在感を増していく。

 人口の増加に伴う負の側面としては、食糧問題の深刻化が考えられる。新興国での人口増に加えて、食生活の変化も起こる(たとえば肉類の消費が増えると飼料としての穀物需要がさらに増える)ため、人口増加のペースを上回って穀物需要が増えることになる。その一方で世界の耕地面積はあまり増えないと予想されているため、耕地面積当たりの収穫量を大きく増やすことができないと、食糧危機の可能性が高まる。このため、農作業の機械化、灌漑の高度化に加え、農業化学(とくに肥料と種子)の進歩への期待が高まっている。遺伝子組み換え作物というと日本ではマイナスイメージが非常に強いが、種子の品種改良によって食糧の生産性を向上することができれば大きなビジネスチャンスであり、欧米の大手化学メーカー(モンサント、デュポン)は種子分野に巨額な研究開発投資を行っている。

 人口の多寡だけではなく、各国内での人口構成の変化のタイミングの違いが、国の経済状況に大きな影響を及ぼすことになる。新興国では、現役人口(15~64歳)が人口全体に占める割合が増加する「人口ボーナス」の状態にあり、社会としての活力が増していく。この舵取りに失敗すれば、人口の多さが裏目に出るリスク(貧困化や食糧問題、それにともなう政情不安)もありうるが、雇用を持続的に創出していければ、よい循環となる。ただし、新興国であっても、すぐ引き続いて2025年までのあいだに、急速に人口全体に占める現役人口の減少という「人口オーナス」期(onus:重荷のこと)に突入してしまうため、これをどのように乗り切るかは大きな課題となる(図表2参照)。