リーン・スタートアップの手法を強く推奨するアンソニーは、それがベンチャー企業の専売特許ではないことを再三にわたり説く。ただし、既存企業がリーンの手法を実践するには実験、人材、変化という3つのポイントを留意しておく必要がある。


 リーン・スタートアップは素晴らしい。スティーブ・ブランクやエリック・リースらは、創発戦略という学術的概念に関連する、説得力がありわかりやすいフレームワークを提供した。その業績は過去数年間のイノベーションの展開における、最も重要な貢献ではないかと私は考えている。

 これまでも繰り返し述べてきたが、次のイノベーションの波は、組織に眠る変革の力を活用する企業から生まれるだろう。いわゆるリーン・スタートアップのテクニック――実用最小限の製品(MVP:ミニマル・バイアブル・プロダクト)を開発し、市場で学び、市場からのフィードバックに基づいて軌道修正を行うこと――により、この眠っている力を引き出すことができる。事実、ハーバード・ビジネス・レビューの特集記事でブランクは、リーン・スタートアップ技術は「打ち続く混乱の諸要因に対処できるよう既存企業を助ける」うえで「ちょうどよいタイミング」で登場したと述べている(邦訳は本誌2013年8月号「リーン・スタートアップ:大企業での活かし方」)。

 私がリーン・スタートアップのテクニックに関して文句があるとすれば、それは一部の実践者の極端な見解に対してだ。彼らはリサーチや思考は役に立たないとし、試作品の製作と市場でのテストでしか学びは得られないと言う。これは正しくない。新規成長事業における初期段階での戦略は、必ずどこかが間違っているが、深く考えればどこかを正せる可能性も高い。優れたイノベーターは、チャンスを見出すための調査に時間を投資し、練り上げられた仮説を立てる。実験からしっかり学べるようにするのである。

 ジェフ・ベゾスがアマゾン・ドット・コムを創業する前に行った調査について考えてみよう。この調査によりベゾスは、音楽でも洋服でも家電製品でもなく、書籍にフォーカスすることになった。書籍市場を調査したベソスは、自社を主要な書籍流通業者の近くに置くことにした。もちろん、実験を通じてでも彼は同じ結論に到達したかもしれない。しかし、市場の動きを研究することで、近道をすることができた。たしかに、大企業にいる人々はビジネスプランに手をかけすぎている。しかし、振り子を反対側に振り過ぎてもいけない。

 もちろん、ツールの価値は使い方によって変わってくる。我々イノサイトは、大企業が破壊的な成長事業を体系的に創造することに力を貸してきた(P&Gの「ニュー・グロース・ファクトリー」などの例がある)。その現場経験から我々は、リーンの手法を活用しようとするリーダーに、次の3つのアドバイスを贈りたい。