チーム内でアイデアの量と質を高めるには? 方法の1つは、コンセンサスよりも健全な批判を重視することだ。批判が創造性を高めるという実験結果と組織慣行を紹介する。


 上司に異議を申し立ててうまくいった例を見つけるのは、難しい。自分に挑戦せよ、とわざわざ要求するリーダーはもっと珍しい。よく聞くのは、ゼネラルモーターズ(GM)を率いたアルフレッド・P・スローンの話だ。GMの経営陣が集う重要案件の会議で、スローンは会議の締めくくりとしてこう言った。「皆さん、本決定については全員賛成でよろしいのかな?」。そして委員会の各メンバーが頷くのを待ってから、こう続けた。「では、次の会議までこの件に関する議論は延期します。この決定が持つ意味について理解し、反対意見が出るまで時間をおきましょう」

 スローンが求めていたのは、私たちが排除しようとするもの、つまり意見の相違だ。リーダーがいかにしてビジョンを示し、人々の支持を取りつけ、グループをコンセンサスに導くべきかといったテーマについてはよく論じられる。一方で、健全な批判・批評に価値を置く企業文化をどう築くかについては、あまり議論されていない。正しき批判こそスローンの求めていたものだ。そして研究によれば、最良の意思決定を行うために必要なものである。

 アイデアの発展段階や意思決定における検討段階では、アイデアの真価を問いその価値を高めるうえで、批判と建設的な対立が非常に重要となる。対立は、多様な視点から検討されていること、そして複数のアイデアの競り合いがまだ続いていることの証だ。その過程で、アイデアはさらなる調査や検討を経て強化されたり、異なるアイデアが混ざって1つの強力なコンセプトになったりする。対照的に、グループの全員が賛同ばかりしているのは、アイデアの不足や、よい提案よりも合意が重視されていることの表れであろう。

 対立と意思決定に関するこんな実験がある。被験者を3つの条件(対照群、ブレーンストーミング、討論)に分けてチームを組ませた。そして各チームに「サンフランシスコのベイエリアの交通渋滞を緩和するには」という共通のテーマを与え、アイデアを出してもらった。対照群にはそれ以上の指示を与えず、できるだけ多くのアイデアを出すよう伝えた。ブレーンストーミングチームには、ブレーンストーミングの基本的なルールを守るよう指示した。「アイデアの善し悪しは判定せず、批判も討論もしない」などだ。討論チームには、ブレーンストーミングチームと似たようなルールが与えられたが、1つ大きな違いを設けた。善し悪しの判定を控えずに、他者のアイデアについて討論し批判するように、という指示だ。

 勝者は明らかだった。ブレーンストーミングのチームは対照群よりも多くのアイデアを出したが、最も優秀だったのは討論チームだった。同じ時間の中で他の2チームよりも平均して25%多くアイデアを生み出していたのだ。