ノブ・マツヒサ(松久信幸)は母国日本で寿司づくりを学び、若き職人時代をペルーとアルゼンチンで過ごし腕を磨いていった。寿司店を数度開業し不運な結果に終わるが、やがてビバリーヒルズで「マツヒサ」、ニューヨークで「ノブ」を開店し成功する。マツヒサの常連客だった俳優のロバート・デ・ニーロが寿司店の共同経営を熱心に誘ったことで1994年のノブ開店に至った。いまでは17カ国で30数店舗を擁するホスピタリティ・グループへと発展を遂げている。HBRのシニア・エディター、アリソン・ビアードによるインタビューをお届けする。
HBR(以下色文字):1店に集中するのではなく、多くの店舗を展開しているのはなぜですか。
松久 私はチームワークが好きです。そしてノブのシェフたちは、私によき学びをもたらしてくれます。厨房の人たちは、ロンドン、ニューヨーク、フランス、イタリア、中国、フィリピンなどの出身ですから、日本出身の私は彼らからも学ぶのです。品質管理が保たれる限り、学び成長することは私にとって喜びです。目指すのはミシュランの星ではありません。お客さんが店にやって来る姿、そして夕食を楽しんでいる姿を、ただ見たいんです。
――どんな方法で品質を一定に保っているのでしょうか。
松久 新店舗がオープンする時に、私は必ずシェフの研修に立ち会います。1年のうち10カ月は出張していて、すべての店舗を訪問します。各店で検査と試食をして、シェフに意見を言います――「これは改善できるね」、あるいは「これは素晴らしい」と。
我々には全店に共通するノブ特製メニューがあり、共通の基本レシピが順守されています。同時に、各店舗にはそれぞれの国、都市、文化に見合ったオリジナル料理をつくる自由もあり、私と各地のシェフたちは一緒にそれを考案します。彼らがつくり、私が試食する。
そして我々は常にコミュニケーションを取っています――何が起きているのか、どうなっているのか、と。昨日も私はニューヨーク店のシェフたちに、いくつかのことを教えてきたばかりです。
――では、やはり人材選びが非常に重要となるのでしょうか。
松久 店を開くのは簡単なんです。場所を見つけ、そこを美しく飾るために100万ドルをかければいい。でもひとたびオープンすれば、そこを幸せな場所にするのは誰でしょうか。料理し、皿を洗い、予約を受け付けるのは誰か。どんな構想にも必要なのは人です。人こそが、よい印象をつくり出すんです。
ノブの最初の2~3店舗については、立ち上げの時に私自身が全員の面接をしたのですが、最初に訊いたのは「あなたはこの仕事が好きですか?」という質問でした。ともに働く人材として私が求めるのは、私と同じだけの情熱を持ち、ハングリー精神を発揮し、常にいま以上の何かを目指す人です。