イノベーションによる社会問題の解決を目指す企業にとって、他者との連携は必須かつ最善の道だ。社会起業家や非営利セクターを「R&D部隊」として活用し協働すれば、自社のイノベーション能力と組織能力が共に向上するという。本誌2015年1月号の特集「CSV経営」関連記事。

 

 ソーシャル・イノベーションの分野における最も優秀な人々は、健康や教育、貧困などの問題の解決にあたり、民間セクターと協働する姿勢をますます強めている。スティーブ・デイビス(かつてマッキンゼーでソーシャル・イノベーション部門を率い、現在は世界の健康問題に取り組むNGOであるパスの代表)が述べたように、「最も優れたソーシャル・イノベーションでも、広く採用されているとは限らない。貧困や識字率の改善における“iPod”のような発明は、世界の片隅で小さな組織によって行われることも多い。しかしそれらの画期的なアイデアは、市場に発見されないため広く普及しない場合がある」からだ。

 公共部門は市場の力を歓迎しているが、多くの企業のCSR部門はいまだに、中核能力を社会問題の解決に使うとなると大きな障壁に直面する。この分野の大家マイケル・ポーターとマーク・クラマーは、CSR(企業の社会的責任)のあり方を再定義するためにCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)という新たなコンセプトを提唱し、その価値の1つに「イノベーションと成長」を挙げている。このフレームワークは、地域社会に利益を「還元」するという従来のCSRのあり方を変えうるものだ。これまでのやり方とは反対に、企業が社会への投資をイノベーション戦略の中心に据えたらどうなるだろうか。社会問題の解決に取り組みながら、自社に新たな事業機会と行動様式を生み出すことはできるのだろうか。

企業と社会起業家の連携

 企業によるインパクト・インベストメント(社会問題を解決する事業への投資)は、リスクを抑制しながらソーシャル・イノベーションを進める手段として見直すことができる(「スタンフォード・ソーシャル・イノベーション・レビュー」の英語記事)。つまり、発展途上国で事業を展開する方法を学ぶために、社会起業家を「R&D機能」として活用するのだ。主要な収益源(中核事業)の枠組みに縛られないこの協働によって、企業は新市場での戦略をいち早く学ぶという恩恵を得られ、その後もっとリスクの低い環境で事業を拡張するためにイノベーションを磨くことができる。以下にいくつか事例を挙げよう。

1.発電
 インドの電力会社ハスク・パワーシステムズ(HPS)は、稲のもみ殻をエネルギー資源に利用して、農村部に小規模な発電システムを供給している。シェル財団はこのモデルの確立と規模拡大を助けるために、市場で得てきた専門知識と資金をHPSに提供した。モニター・グループの最近の報告によれば、この協働によってHPSはより広域なリーチを手に入れ、一方シェルはHPSのさまざまなイノベーション――竹を利用した送電、利用回数ごとの請求システム、非常に安価で盗電防止にもなる電力メーターなど――を最前席で学ぶことができた(英語報告書)。