クラウドベースの健康管理プラットフォームを構築したフィリップスは、他社との提携を巧みに管理することでそれを実現した。提携のネットワーク化、そして提携管理チームの設置がその要諦だ。

 

 企業が競争力を持つうえで、顧客企業や同業他社、サプライヤーとの連携が重要であることは周知の通りだ。しかし提携の効力は、関係を適切に管理しなければ損なわれてしまう。よく見られるのは、提携関係が1つのチームや事業部にのみ独占されるというケースだ。アイデアやリソースを、狭い部門内に留めず他の事業領域にも適用すればイノベーションに結びつくかもしれないのに、そのチャンスを逃している企業が多いのだ。

 拙著Network Advantage: How to Unlock Value from Your Alliances and Partnerships でも述べているが、包括的なアプローチで提携を管理すれば、企業はもっと画期的な新規事業を創出できる。最近発表された、セールスフォース・ドットコム(CRMとアナリティクスの企業)とフィリップス(オランダを本拠地とするグローバルなエレクトロニクス企業)との協働は、その良い事例である。

 両社の関係は最初、単なる買い手(メーカー)と売り手(サプライヤー)の取引として始まった。フィリップスは顧客関係の管理にセールスフォースのソフトウェアを使っていたが、やがて両社の幹部たちは考え始めた――「CRMデータの管理方法を心得ているセールスフォースであれば、フィリップス製の機器を利用する年間およそ1億9000万人の患者の医療データも管理できるのではないか」と。

 両社はパートナーとして、患者の状態をモニタリングするソリューションの提供に向け、医療機関、保険会社、患者を結ぶプラットフォームを構築することで合意した。この「フィリップス・デジタル・ヘルススイート・プラットフォーム」が目指すのは、医療機器からデータを収集して分析し、臨床現場での医療専門家の意思決定を向上させるとともに、患者が自身の健康管理にもっと能動的に取り組めるようにすることだ。

 提携の第一歩として、両社はeCareCompanionとeCareCoordinatorという2つのアプリを開発した。eCareCompanionは患者のスマートフォンやタブレット端末にインストールすると、健康状態をモニタリングする機器(体重計、服薬管理装置、血中酸素測定器、体温計など)に接続される。一例として、閉塞性肺疾患(喫煙に起因することが多い)の患者であるジョンのケースを見てみよう。彼は在宅で療養生活を送っている。健康状態をモニタリングするために、ジョンの体重、血中酸素、体温のデータは、プラットフォームに絶えずアップロードされる。そしてeCareCoordinatorは、患者が装着する機器から得たデータを分析する。データのパターンに不安要素がある場合には、eCareCoordinatorは患者の家族、あるいは看護師や医師に知らせてくれる。