有能な若手はリーダーに昇進すると、自分より能力の低い人に仕事を任せるのに不安を覚える。コントロールを維持しながら過剰に抱え込まず、うまく任せるにはどうすべきか。

 

 有能な人材の多くは、自分の業績だけで勝負できる立場から、他者に頼ることが必要となる職位に昇進した時、内なる葛藤を抱える。得意分野について誰より知悉する自分にプライドを持ち、抜群の成果を上げる能力に自信を感じていたい。ところが、新しい職位では任務の範囲が広いため、すべての詳細を把握しておくことがもはやできない、あるいは望ましくない――。

 担当するプロジェクトや部下の数が増えている人が、コントロール感を取り戻す唯一の方法――それは、逆説的だが「コントロールを諦める」ことである。他の人々の助けを求めるのだ。そのためには、「自分ならこのやり方をするはずだが、すべてはそれと違う方法で行われるのではないか」とか、「答えをすぐに自分で見つけるのではなく、誰かに見つけてもらわねばならないのか」といった恐れに立ち向かう必要がある。

 また、「コントロール」という言葉を再定義する必要もある。これまでは「すべての詳細を自分の頭で把握し、それが即座に思い浮かぶこと」だった。新たな定義は「十分な情報に基づいて判断できるよう、適度に大局的な視点で物事を把握すること。そして、他者の仕事に定期的に目を配り、次のアクションを起こすタイミングを計れる、適切な仕組みを持つこと」としよう。さらには「能力」の意味も、「自分ひとりで優れた仕事をすること」から「他者がいい仕事ができるように援助すること」に変えなくてはならない。

 このようにマインドセットを変えて行動に反映すれば、心の平穏とコントロール感を保ちながら、周囲の人々をエンパワーできる。そのために必要な4つのステップを紹介しよう。

1.自分だけにしかできないことは何かを、よく考える
 自分が責任を負う対象(部下や担当プロジェクトなど)がただ増えゆく一方なら、これまで自分の能力以下の仕事をしてきたのでない限り、やがてパンクしてしまう。責任の増加に伴う時間の負荷に対処するには、以下について自問し、自分にしかできないことは何かを慎重に見極める必要がある。

●この仕事を許容できるレベルでこなせる人が、他にいるのではないか?

●このプロジェクトの一部を、誰かに任せられないだろうか?

●最初の草案は誰かに任せ、自分はそれに少し手を入れるだけでいいのでは?

●この仕事のせいで、自分にとって最も価値のある仕事が妨げられてはいないか?