HBR寄稿者たちの間では、マルチタスク(またはスイッチタスク)を悪とする意見が目立つが、もちろんメリットもある。本記事は同時並行作業の長短両面について、研究と経験則を基に考察する。

 

 いくつものタスクの間を並行して進めるよりも、1つずつ順番に終わらせるほうがよいという考え方がある。しかし私には受け入れがたい。

 なぜなら、数多くの仕事を同時に進めることに慣れきっており、コロコロ変わる複数の締め切りを守れるのはこのやり方のおかげだと考えてきたからだ。

 仕事を1件ずつ順番にこなすことのメリットについては、3人の研究者によって示されている(モントリオール商科大学のデシオ・コヴィエロ、ボローニャ大学のアンドレア・イチノ、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院のニコラ・ペルシコによる英語論文)。

 その理屈はこうだ。たとえば6人の依頼者から同時に、それぞれ3日を要する至急の仕事を与えられたとしよう。計6件のうち1つの仕事に半日を費やしたら、残りの半日は2つ目の仕事をやる。翌日は3つ目と4つ目、という具合に切り替えながら並行して進めていくとする。

 日数が経つにつれてすべての仕事が着実に進捗するが、15日目になっても完了した仕事は1件もない。16日目にようやく最初の2件が終わり、17日目に次の2つ、18日目に最後の2つが終わる。したがって6人の依頼者全員が長く待たされ、苛立ちを覚えることになる。

 一方、6件の仕事を1つずつ終えていけば、最初の1件は早くも3日目に完了し、2つ目は6日目、3つ目は9日目、という具合に進む。つまり並行して進める方法と比べて、5つの仕事をより早く終えられるのだ(6件目については18日目に完了するので変わらない)。したがって、依頼者のうち少なくとも2人は大いに喜び感心してくれる。全体としても、並行した場合と比べ6人のうち5人は恩恵を得ることになる。

 3人の研究者はこの概念を理論上で示した後、実社会の事例を調査した。イタリアの裁判官たちである(英語論文)。彼らのほとんどは処理能力を上回る数の事件を抱えている。そのなかには多くの裁判を並行して進める人と、それほどでもない人がいた。調査のサンプル数は多いとは言えないが、処理件数の分析から、1件ずつ順に終わらせるほうに明らかなメリットがあることが示された。多数並行型の裁判官は、手持ちの案件を終えるのに要する期間が長く、所定の期間内に完了する確率が低かったのである。