ファイザーとアラガンの合併が、節税目的であるとの批判を受けている。では節税の他に、この巨大買収はどんな価値を生じうるのだろうか。アライアンス戦略の専門家が、企業連携で生じる「統合価値」の原則に沿って考察する。

 

 製薬会社ファイザーとアラガンは、買収総額1600億ドルという今年最大級のM&Aに合意した。ここでの「大きい」というのは、再配分される企業資産の規模においてである。しかし、これから創出される「統合価値(joint value)」についてはどうだろうか。

 合併取引の規模と、合併によって創出される統合価値は別物だ。たとえば、私があなたに車を売るとしよう。車の所有権は移転するが、あなたが私と同じように町の周辺を走るだけなら、新たな価値は生じない。一方、もし私がウーバーの運転手かタクシー免許の保持者に車を売れば、その資産は別の形で活用されるかもしれず、それは顧客や社会にさらなる価値をもたらす。「車」と「タクシー免許」の組み合わせによってのみ生じる(どちらが欠けても生じない)のが統合価値である。(なおこれとは別に、車を貸し出すという連携で生まれる統合価値もある。)

 昨今、合併の取引額は目まいがするほど大きく、数百億から数千億ドルに及ぶ。しかしその金額は車の価格と同じであり、合併後に新たな所有者が生み出す付加価値とは違う。

 統合価値はまた、買収時に支払われるプレミアムとも異なる(ただし密接に関連はしている)。ウーバーの運転手は私に、一般の人が妥当と感じる金額よりも上乗せして支払う意思がある。それがプレミアムだ。ウーバーの運転手は、その車を使って上乗せ分以上に稼ぐことを見込んでいる。そうでなければこの取引をする理由はない。

 報道によれば、ファイザーはアラガンの資産を吸収できる見返りとして、アラガンの株主に総額およそ350億ドルのプレミアムを支払うつもりだという(本社をアイルランドへ移転する件については後述)。したがって、この合併が戦略的に正しいかどうかは、両者が今後プレミアムを上回る統合価値を生み出せるか否かによる。

 合併による統合価値は通常、4つの源泉から生じる。規模の拡大、範囲の拡大、経営の合理化、将来の選択肢の拡大だ。

1.規模の経済性

 これは最も一般的な統合価値の源泉であり、生産やバックオフィス業務におけるコスト削減につながる。規模のメリットは、企業活動の複数の部分で生じうる。合併を成功させるには、統合価値が潜む源泉に規模の経済性が働くよう、慎重に計画しなければならない。

 生産における規模の経済性は、工場レベルにとどまることが多い。つまり、そのメリットは工場の拡大によって生じるものであり、企業自体の大きさからではない。とはいえ、企業レベルでの規模のメリットを企図した合併もなかにはある。たとえばビール業界における合併は、生産ではなくマーケティングと販路における規模のメリットが目的とされる。効率的な工場は比較的小規模なためだ。

2.範囲の経済性

 範囲の経済性とは、規模の経済性から派生する重要な要素だ。規模と範囲の経済性の違いは、「同じものを、より多く」か「似たものを、より多く」かで考えるとよい。P&Gによるジレットの買収は、範囲の経済性を高めるものだった。合併後はより幅広い製品を売れるようになったが、各製品には明確な違いがあり、かつブランディングや販路、物流など複数の面で共通性もある。

 ファイザーとアラガンは、こうした規模と範囲の経済性によって統合価値を生めるのだろうか。JPモルガンの推定によれば、合併後は販売、総務、製造、研究における活動の統合によって、毎年20億ドルのコスト削減が図れるという。その場合、削減による利益を(マルチプル法に基づいて10倍) 現在価値に換算すると200億ドルになる(英語記事)。これだけでは350億ドルというプレミアムに達しないため、合併が戦略的に妥当であるためにはさらなる統合価値が求められる。