多忙を極めるリーダーは往々にして、ある貴重なものを失ってしまう。それは戦略について熟考するための、十分な時間だ。『ヤバい経営学』の著者バーミューレンが、時間を費やして考えるべき5つの戦略上の問いを示す。

 

 社内の誰かに調子を尋ねると、「おかげさまで、順調だよ」よりも、「忙しい!」という返事のほうが多いことにお気づきだろうか。その理由は、ほとんどの企業では多忙であることを期待されているか、あるいは少なくとも忙しいふりをすべきだとされているからだ。そうしなければ自分の重要性を認識してもらえない。「たいして忙しくないよ」「実は、けっこう時間の余裕があるんだ」といった返事は、社内での地位やキャリアにはあまりプラスにならない。

 だが、全社または部門の戦略を統括する立場にある人の場合、常に多忙を極めているというのはいささか問題である。思考と内省の時間が十分に取れないからだ。戦略の検証と策定において、思考は非常に重要な活動だ。

 ある大手グローバル銀行のCEOが、かつて私にこう語った。「自分のような立場にある人間は、常に忙しすぎるという状態に簡単に陥ります。必ず出なければならない会議がいつもあり、ほぼ1日おきに飛行機で別の場所に移動する時期もあります。ですが、そのために報酬をもらっているわけではない、という思いがある。自社の戦略について慎重に考えることこそが、私の任務なのです」

 まさにその通りであろう。そして彼以外にも、成功しているビジネスリーダーのなかには、考える時間をつくることの価値を理解している人たちがいる。有名な例を挙げれば、ビル・ゲイツは1週間の休暇を年に2回取り、水辺の隠れ別荘で過ごした。何事にも邪魔されずに、マイクロソフトとその将来について熟考することだけが目的だ。また、ウォーレン・バフェットもこう語っている。「私はほぼ毎日、多くの時間を、ただ座って考えることだけに費やすようにしている」

 リーダーが考える時間を見つけられない状況は、会社全体や部門やチームの舵取りがうまくできておらず、常に小火を消すのに忙しいということだろう。それは自社を道に迷わせるリスクにもつながる。

 経営論の大家ヘンリー・ミンツバーグ教授が述べているように、戦略の大部分は創発的なものである。つまり、計画をただ実行しただけで成立するものではなく、予期せぬ出来事にその都度対応していく結果としてでき上がるものだ。

 ビジネスではさまざまなことが起きる。企業はしばしば外部の事象や舞い降りた幸運に対応すべく、顧客や市場、製品やビジネスモデルをめぐり、意図していなかった新たな活動を始める。その際にリーダーは、新たに出現した事態について熟考するために、十分な時間を取る必要がある。体系的に分析し、慎重に考え抜き、必要に応じて調整しなければならない。

 だが多くのリーダーは、そのための時間をつくらない。また、たとえつくっていても、十分ではない。

 組織のリーダーは、何事にも邪魔されない時間を定期的に、かつ十分長く取って熟考のみに費やすことを、みずからに課すべきだ。その際に、戦略を大局から考えるうえで役に立つ5つの問いを以下に示そう。

1.フィットしていないものは何か?

 展開中の一連の活動や事業が、全体として整合しているか自問してみよう。それぞれの活動を個別に見れば有望かもしれないが、それらが相互にうまく作用し合っている理由、総和が各部分の単純和よりも大きい理由を説明できるだろうか。

 故スティーブ・ジョブズは魅力的に見える事業を打ち切った時、アップルの従業員にこう説明した。「微視的には理にかなっているが、巨視的には帳尻が合わない」。全体が各部の和よりも大きくなる理由を説明できなければ、その構成要素を再考する必要がある。

2.部外者であれば、どうするだろうか?

 企業はしばしば、時代遅れになった製品やプロジェクト、思い込みから脱却できずに苦しむ。従来からやっている物事、または意図的にやってこなかった物事だ。それらの一部は、組織論の専門家が呼ぶ「立場固定(escalation of commitment)」の結果である。何かにコミットして、それを貫くために(おそらく真っ当な理由の下に)必死で取り組んできた。だが今や状況が変わり、もはや理にかなっていないのに、なお執着し続ける場合がある。そこで、こう自問してみよう。「もし外部の誰かがこの会社を経営することになったら、その人物は何をするだろうか?」

 インテルのアンディ・グローブは、当時のCEOゴードン・ムーアと戦略について意見を交わしていた時、上記のような問いかけを「回転ドア」と称した。自分たちが外部の人間で、この会社に新たな経営者としてやって来たと仮定する。さて何をやるか、と自問する。そこで出た答えを、自分たちでやればよい。回転ドアから会社の外に出て、もう1度ここに戻り、実行しよう――そう語り合ったのだ。その結果、インテルはメモリーチップ事業から撤退し、マイクロプロセッサに専念することになった。これにより、売上高30%、純利益40%の年成長率を10年以上にわたって維持した。