通信ネットワーク回線の品質の差で、ソフトバンクからの乗り換えを促すことを狙う専用端末。先行する商品とそっくり

11月8日、大手通信3社のなかで最も遅く、NTTドコモが2010年冬から11年春にかけての新モデルを計28機種発表した。

 世間の注目は、4種類のスマートフォンや、12月に商用サービスが開始されるLTE(3・9世代通信)に集まった。だが、発表時にまったく言及されなかったものの、来年のドコモにとって重要な“武器”になる新端末が「その他4機種の一つ」という扱いで、ひっそりとリリースされていた。

 それは、11月下旬に発売が予定されている「モバイルWi-Fiルーター」だ。現行の3G回線をWi-Fi機器につなぐ小型中継機で、基本性能はイー・モバイルの大ヒット商品「Pocket WiFi」の“二番煎じ”である。だが今回、安価な専用端末を商品ラインナップに加える意味は大きい。

 というのも、すでにドコモは、中~上級者向けに、異なる二つの無線方式を切り替えられる「携帯型無線LANルーター」を出している。そして今度は、初~中級者に、割安のキャンペーン価格でドコモ回線へと乗り換えてもらうことを狙っているからだ。

 つまり、今年の夏に発売された携帯型無線LANルーターがiPadのデータ通信トラフィックの獲得に主眼があったことに加えて、今年の冬に発売される廉価版の端末はiPhoneユーザーを含む初~中級者の獲得までを視野に入れている。これで、ソフトバンクが独占販売してきた米アップル製品のユーザーを、自然なかたちでNTT陣営に呼び込むための“受け皿”が整う。

 さらにドコモは、LTEと3Gを切り替えられる“デュアル端末”を、来年の4月に発売する準備を進めている。そして、4月以降に出る新端末は、SIMロックをはずせるようになる。これらの動きも、偶然ではない。

 ドコモの山田隆持社長は、公の場で「品質のよいドコモ回線を使ってほしい」とは言うが、ソフトバンクを直接牽制する発言はしない。だが、ドコモの“二正面作戦”は、着々とソフトバンクの外堀を埋めている。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)

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