資源を循環させるサーキュラーエコノミー(CE)の潮流は世界へ広がり、ヨーロッパでは法規制による標準化が加速する。では、日本ではどのように進めていくべきか。そのヒントとなるのが、イオングループの取り組みだ。イオンの鈴木隆博氏とその取り組みを支援する日本総合研究所(日本総研)の猪股未来氏が、CEの要諦と未来のビジョンについて語り合った。
環境に影響を与えている事実を
真摯に受け止める
イオン サーキュラーエコノミープロジェクト リーダー
鈴木隆博 氏 TAKAHIRO SUZUKI
イオンに入社後、本社秘書室、業務提携、新規事業の立ち上げ等に携わる。環境省出向を経て、グループ環境・社会貢献部長として「イオン脱炭素ビジョン2050」をはじめとするイオングループの中長期環境戦略の策定・推進等に従事。2024年3月より現職。
日本総合研究所 環境・エネルギー・資源戦略グループ 主席研究員(プリンシパル)/副部長
猪股未来 氏 MIRAI INOMATA
大手メーカー、コンサルティングファームを経て2016年、日本総合研究所入社。多様なセクターにおける環境・エネルギー・資源分野の国内外事業戦略立案・展開支援を推進。経済産業省や環境省向け分散型エネルギー普及・啓発に関する政策アドバイザリー業務にも多数従事。
猪股:「第五次循環型社会形成推進基本計画」が2024年8月に閣議決定され、日本でもCEの機運が高まっています。資源を循環させるCEは、そもそもゴミを出さない、環境破壊を起こさないという原理原則に基づいており、製品をつくる段階でリユースやリサイクルをしやすい設計にしたり、長く使い続けられるための工夫をされたり、消費者との接点やバリューチェーンをどう変えていくかが求められています。
鈴木:イオンが環境活動に取り組み始めたのはいまから30年以上前に遡ります。店頭にて買い物袋の持参やペットボトルやアルミ缶、食品トレー、紙パックなどの資源回収を呼びかけ、お客様が毎日の買い物の中で気軽に参加できる身近な環境活動としてスタートしました。地球温暖化防止の観点から化石由来資源の使用をできるだけ減らして、ゴミのリサイクルを進めていこうという機運を高めていく。これはCSR(企業の社会的責任)活動の一環でした。
そこから、持続可能な調達方針や脱炭素ビジョン、使い捨てプラスチックや食品ロス削減など、野心的な目標を掲げて取り組みを加速する中で、CEを経営戦略として位置付けるようになりました。実際に、私たちが提供する商品を通じて、自然環境に悪影響を与えているという事実を真摯に受け止めた結果です。環境負荷の削減だけでなく、経済成長に資するCEの推進は、持続可能な経営を進めていくうえで大変重要なテーマです。
猪股:私たちはもともと、再生可能エネルギーの導入やカーボンニュートラルの推進、といったさまざまな分野でイオングループの支援をしており、CE事業の推進へと発展していったという経緯があります。
この分野で先行するヨーロッパでは、2024年7月に「持続可能な製品のためのエコデザイン規則」(ESPR)が施行され、あらゆる製品に環境配慮を前提にした設計が求められています。「デジタル製品パスポート」を義務付け、トレーサビリティまでデジタルで管理するといった、トップダウンで進めるのがヨーロッパのやり方です。日本も同じようにデジタル製品パスポートなどの構想が話題に挙がり始めましたが、ヨーロッパとは異なり、いろいろな企業が協調領域と競争領域の活動をバランスを見極めながら取り組んでいるのが日本のやり方である印象です。
鈴木:まさに私たちもそのように進めてきました。当社はいま、国内外で多種多様な業態の約2万店舗を運営しています。全体で見れば大きな規模ですが、各地域にフォーカスをすると、そこにはいろいろなステークホルダーがたくさんいらっしゃいます。イオンだけでは対応できる範囲が限られるので、志を同じくする各地域の地元企業との共創を通じてCEを推進しています。私たちが目指しているのは、地域単位での地産地消型の資源循環モデルの構築です。域内で資源を効率的かつ最適化して循環活用することが非常に重要で、それを全国へスケールさせていくことが成長につながっていくと考えています。
猪股:CEという横文字を使うと、企業や株主が主なプレーヤーだと思われがちですが、基本は「人」です。最も身近なステークホルダーである従業員の気持ちや生活行動が変わっていくように、そこでビジネスをされている方や商品をつくる方々にも働きかけるという、ボトムアップ型で地道な活動が重要です。たとえばイオングループで働いている50万人の従業員の皆様がペットボトルや食品トレーなどを回収ボックスに持ち込むだけでも影響は大きい。関係する企業やサプライヤーの数も膨大ですので、イオングループが旗振りをして、タッグを組むことが強みになっていますね。