今から20年後の2030年、日本の総人口は1億1000万人を切り、さらに労働人口は現在の6500万人超から5400万人近くまで減少するといわれている。なぜ日本は、他国を大幅に上回るほど早い速度で高齢化し、急速に人口が減少しているのだろうか。そして、この急激な変化に、日本企業と日本人はどう対応していくべきか。「人口減少高齢化の本当の原因」と「20年後の日本の姿」を政策研究大学院大学の松谷明彦教授に話を伺った。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子)

日本の急激な人口高齢化は
戦後の「産児制限」が原因だった!

――少子高齢化が、日本経済に大きな影響を与えている。そもそもなぜ、日本はこれほど急激に人口高齢化(※)が進んでいるのだろうか。

まつたに・あきひこ/政策研究大学院大学教授。1945年生まれ、大阪市出身。東京大学経済学部経済学科・同経営学科卒業。大蔵省主計局主計官、大臣官房審議官などを歴任。1997年より現職。著書に『人口減少時代の大都市経済』『「人口減少経済」の新しい公式』などがある

 現在、人口が減少している国として日本のほかにロシアや東欧諸国が挙げられるが、その理由は大きく異なっている。ロシアや東欧諸国は、社会不安など「一時的」なものが原因なのに対して、日本の人口減少は「構造的」なものである。そして、この構造的な理由から人口が減っているのは、今のところ日本だけであり、しかもスピードが非常に速い。人口減少は決して先進国共通の現象ではなく、日本独自の問題なのだ。

 これに対して人口高齢化は先進国共通の現象といえるが、ただしここでも、日本の高齢化のスピードは他の先進国に比べて異常に速い。ではなぜ日本だけがそのような特殊な状況に置かれているのか。それは、日本人が行った“過去の選択”に原因がある。戦後直後の日本は、食料危機に陥り、飢餓が深刻な問題となっていた。そこで、産児制限のために、昭和23年(1948年)「優生保護法」という法律がつくられ、人工妊娠中絶が可能になった。

 とはいえ、実は産児制限をはじめた直後の1950年(昭和25年)には朝鮮動乱が勃発し、それまでの飢餓状態から日本は一気に特需景気に湧いていた。つまり、産児制限の必要はなくなっていたのだが、その後20年に亘って出生率の低迷が続き、制限前は270万人程だった年間出生数は約170万人に減少してしまう。

 なぜこのような事態になったのか。おそらく、「子どもの数を簡単に調節してもいいんだ」という、それまでの倫理観を覆すような認識が、国民に広まったことが大きく影響しているといえる。たとえ、産児制限が必要だとしても、人工妊娠中絶という手段が適切であったのかどうか、という疑問は拭いきれない。

(※)全人口に占める、65歳以上の人口比率増加のこと。