ドイツ銀行の経営危機が話題になっている。米司法当局から最大140億ドルの課徴金を突き付けられ、ドイツ政府も気をもんでいる。リーマンショック以前に売りまくった住宅ローン債権(MBS)を巡る不正の後始末だ。これだけなら「古傷」で済むが、問題は現在進行形のビジネスだ。
金融危機に懲りず、ヘッジファンドへの融資やデリバティブなどハイリスク・ハイリターンを狙った商売に足をすくわれた。そこに欧州中央銀行(ECB)によるマイナス金利が重くのしかかる。今や赤字・無配。世界を巻き込む金融危機の引き金になりかねない、と市場は警戒している。
「世界最強」といわれたドイツ銀行の内部で何が起きたのか。そんな折、住友銀行の取締役OBが実名で書いた「住友銀行秘史」(講談社)が出版された。沸騰するバブルに乗って収益第一主義に走った住銀が落ちた「イトマン事件」。その顛末が行内の権力抗争と併せて描かれている。闇の勢力が住銀の経営トップを絡め取ろうとした事件は、住銀が「最強の銀行」と囃されていた時に起きた。
どちらも背景に、長期にわたる金融緩和がある。収益競争が銀行経営者を暴走させた。「ドイツ銀行よ、お前もか」である。金融業に内在する反社会性は、世界的なマネー過剰によって暴き出される。
「世界最強」だった手堅い銀行で
一体何が起こったのか
ドイツはEU統一の勝ち組。欧州の富はドイツに集まり、銀行も「独り勝ち」ではなかったのか。そんな銀行が「不健全なビジネス」で傾くというのだから市場は驚いている。手堅い銀行経営を表す「サウンド・バンキング」という言葉が似合う銀行とされていた。
だが1998年にドイツ銀行と投資運用会社を立ち上げた国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)の幹部は、「ドイツ銀行はそんな綺麗な組織ではありません」。当時を振り返ってこう言う。
「アメリカの投資銀行から乗り込んで来たグループと本流のドイツ出身者がいがみ合い、お互い情報を囲い込み、危ない橋を渡って業績を競い合っていた」
合弁で設立したアポロン・アセットマネジメントは事業免許が下りず、2年で解散となった。「欧州最強といわれた銀行の内部抗争の凄まじさを実感した」という。
ドイツ銀行の変貌を示すエピソードである。かつては日本のメガバンクのように、企業への貸付や社債発行などメーンバンクとして、ドイツ産業の守護神として君臨していた。謹厳実直とされるドイツ気質を映すサウンド・バンキングが信用を高め、ドイツの発展と共に生きる銀行だった。
ところが、20世紀末に二つの波がドイツ銀行を襲う。一つはEU統合。英国・シティの金融業者と欧州市場で激突する。第二波は米国のウォール街から。製造業で競争力を失った米国が金融業で巻き返しに乗り出した。