米国の格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が日本国債の格付けをAAからAAマイナスへ引き下げた。他国の財政支援が必要とささやかれるスペイン以下だ。だが、市場にはほとんどショックを与えなかった。
長期金利の指標である10年物国債の利回りは、格下げが発表された1月27日こそ前日比で0.015%上昇したが、翌28日には低下した。さらに、2月2日の午後の利回りは1.230%前後と格下げ前と同水準で推移した。円の対ドルレートも28日は下落した後は反転し、2日は格下げ前より低い水準で推移した。
国債がデフォルトしたときの保証料率であるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)のスプレッドも同様だ。格下げ発表直後こそ80ベーシスポイント前後から85ベーシスポイント強にまで拡大したが、すぐに元の水準に戻った。
なぜ、市場は反応しなかったのか。民主党政権は2011年度予算で、前年度に引き続き税収を超える額の国債を発行する。11年度末には政府の長期債務残高の対GDP比率は180%台半ばに達する見通しだ。
この苦境をS&Pはとらえ、(1)政府債務比率のさらなる悪化、(2)デフレ長期化による債務問題の深刻化(実質価値増大)、(3)民主党政権の債務問題に対する一貫した戦略の欠如を格下げ理由に挙げた。
当然、市場参加者もリスクは認識している。ただし、「格下げ理由は格付け機関に指摘されるまでもない、新鮮味のない材料」(大橋俊安・大和証券キャピタル・マーケッツチーフクレジットアナリスト)だった。S&Pによる格下げも初めてではない。それゆえ、格下げ直後の長期国債利回り上昇を狙う売りを仕掛ける動きには、大半の投資家は反応しなかった。
現時点では、代替運用先がないため、国債を購入し続けるしかないという事情もある。とはいえ、市場参加者は“安心な今日”が永遠に続くとは思っていない。たとえば、今回の格下げには大きく反応しなかった日本国債のCDSスプレッドだが、グラフに見るように昨年末から反転している。海外のファンド勢が、再び日本国債の不履行リスクを見積もり始めているためだ。
また、AAAの日本国債格付けを維持してきた国内の格付け会社が、方針転換しつつある。格付投資情報センターは、11年度中の赤字国債の追加発行、12年度予算編成で税外収入に頼らなければ財政赤字が拡大といった状況になれば格下げする公算が大きいと警告している。民主党政権の迷走ぶりが続けば、条件を満たす可能性は高い。「国内勢の初の格下げのインパクトは小さくない」との声は市場に少なからずある。
菅政権は市場の鈍い反応に安堵することなく、自らが叫ぶ「税と社会保障の一体改革」を進め、税収拡大と歳入カット両方を急がないと、不連続かつ急激な市場の反乱に見舞われかねない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 竹田孝洋)