外に出るきっかけを
天変地異に求めてしまうほどの孤独

 真っ暗な部屋の中で、テレビのブラウン管からは、「たったいま、飛行機が墜落した模様です」などと、キャスターの上ずった声の映像が流れてくる。

 2001年9月11日。アメリカ同時多発テロ事件の第一報を伝えるニュースだ。

 30代の高木明雄さん(仮名)は、当時、都内のアパートで1人暮らし。その日の夜10時過ぎ、何気なく報道番組を見ていて、突然、CNNのニュースが流れ始めたときのシーンを鮮明に覚えている。しかし、その前後の記憶が、なぜかない。

 テレビでは、当初の事故報道から、現地駐在ジャーナリストが「テロの情報が入った」と伝え、2機目がビルに衝突。そして、ビルの崩壊へと延々と続いていく。そんな映像を、高木さんはただ茫然と眺めていた。

「自分の関係のないところで、歴史がつくられているなあ」

 時代が動いている傍らで、引きこもってテレビを見ている自分がいる。高木さんには当時、この大きな事件が、まるで映画のように感じられた。

「あの頃は、自分からはどうにも動くことができなくて。自然災害などの外の要因をどこかで待っていました。アパートが火事になればいいのに…とか」

 天変地異があれば、外に出られるような気がしていた。

「失われた10年」が続く中で、21世紀に入り、世の中がテロなどのぼんやりした社会不安へと向かっていく。そんな時代のどこかに展望を見いだせそうだった一方で、それらも自分につながる話には思えなかった。

 その頃の高木さんは、誰とも関わりを持っていなかったからだ。

「うつ」へと追い込んだ
多忙な日々と超就職氷河期

 高木さんが最初に体調を崩したのは、ちょうど9・11事件の起こった2001年、大学を卒業する直前頃のことだ。そんな状態のときに、超就職氷河期も重なり、就職活動が思うように行かなかったのがきっかけとなり、引きこもるようになったという。

 学生時代は大変だった。都内にある大学のゼミに入ると、いろいろな役目が自分に回されてきて、それらを「できます」といって、すべて引き受けていた。しかも、新たな役目が次々にできてしまう。