場所や状況に合わせて
補聴器を使い分ける

取材のときは、「耳あな型」の補聴器を着けていた松崎さん。「このタイプだと全然わからないでしょう?」と耳を指差しながら、ポーズをとってくれた。

 医師からのアドバイスもあり、松崎さんは、補聴器の使用を決断した。

「乗り物のなかや、騒がしい場所での話し声もよく聞こえるようになりました。なによりも、普通に会話のキャッチボールができることが嬉しいですね」

 現在、松崎さんが使っているのは、「耳あな型補聴器」と2種類の「耳かけ型補聴器」だ。家庭にいるときや、仕事の打ち合わせ、テレビ出演時など、場所や状況に合わせて使い分けているそうだ。

「二つ持っている耳かけ型補聴器のうち一つは、カラーがブルーなんです。パーティに出席するときなど、同系色のピアスとコーディネートして、アクセサリー感覚で着けています。補聴器の使用を隠そうという気持ちはありませんね」

「聞こえる」ことの
大切さに気づいてほしい

 松崎さんのように、補聴器を積極的に利用している人は着実に増えているが、その一方で、補聴器の使用をためらう人も少なくないのが実情だ。

 最後に松崎さんは、こう強調した。

「聞こえていないのに、聞こえているふりをするのは相手に失礼だし、自分もつらい思いをする。年を重ねればどこかの機能が衰えるのは当たり前です。聞こえの低下があったなら、それを補える補聴器の利用を積極的に考えてほしいですね。僕は補聴器を着けるようになって、コミュニケーションの大切さや、いろいろな音を聞いて何かを感じ取ることの素晴らしさを、あらためて実感しています」

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■□■補聴器マメ知識■□■

日本人の約15%が
難聴をかかえている

 国内の難聴者数は推定1944万人(人口比15・4%)。高齢化の進展に伴い、今後増えると予想されている。ところが、難聴者のうち約半数は難聴を自覚しておらず、実際に補聴器を持っている人は難聴者の4人に1人というのが実情だ。

 この背景には、補聴器を着けることに対する心理的な葛藤や、「補聴器を使っても聞こえが元に戻らず役に立たない」といった補聴器に対する誤解があるようだ。補聴器は低下した聴力を回復させるのではなく、現在の聴力を最大限に活かす機器であり、装用効果も、人によって異なることを理解しておく必要がある。

聴力低下を感じたら
耳鼻科医に相談を

 日本補聴器工業会の赤生秀一理事長は「補聴器は薬事法で管理医療機器に指定されており、厚生労働省が認可したものでなければ販売することはできません。また使用するには補聴器販売店で、個々の聴力や使用状況に合わせた調整(フィッティング)が必要になり、取り扱いの説明を受けて正しく使用することも大切です」と語る。

 聴力の低下を感じたら、まず、耳鼻科医の診察を受け原因をはっきりさせ、補聴器の装用が必要かどうかをアドバイスしてもらうとよいだろう。