得意先が無理を言ってもそれに応える努力は必要。でもそれが“不条理”だったら──。アサヒビール元会長兼CEOの福地茂雄氏が信念としていたのが「無理は聞いても、不条理は聞かない」。最新著書『アサヒビールで教わった 自分の壁を一瞬で破る最強の言葉』から、ビジネスの現場で力となる「最強の言葉」をお届けする。

50%増産の大決断に
現場は真っ青になった

お客の「無理」は聞いても「不条理」は聞くな福地茂雄(ふくち・しげお)
アサヒビール元会長兼CEO 1934年福岡県生まれ。57年アサヒビール株式会社入社。99年代表取締役社長就任。2001年、48年ぶりに国内ビール系飲料で年間トップシェア獲得。02年代表取締役会長兼CEO。07年相談役就任後は東京芸術劇場館長、日本放送協会会長、新国立劇場理事長などを務める。15年相談役退任。

「得意先が、無理を言うのはあたりまえ」──。

 私の2代前に社長をされていた樋口廣太郎さんがよく言っていた言葉です。

 樋口さんは、スーパードライを大ヒットさせ、アサヒビールを復活させた社長であり、わが国を代表する企業経営者の1人として知られています。

 1987年3月に発売したアサヒスーパードライは、発売わずか2週間で30万函、4月末までに70万函の売り上げを記録しました。日を追うごとに人気は高まり、商品の供給が追いつかず、当時、営業部長の私のところに、「こんなに品薄で迷惑をかけているのによく生きているな」という電話もかかってきたほどです。

 そのときに、50パーセント増産という決断を下したのが樋口さんです。

 スーパードライの人気は、たしかにこれまでの新商品の比ではありませんでした。とはいえ、まだ発売して数ヵ月であり、海のものとも山のものともつかない状態です。50パーセント増産ということは、全国の支店に50パーセント増の販売予算を割り当てることです。