東京電力の管轄区内では、桜の開花と時を同じくして、計画停電の心配も薄れました。しかし、夏場の電力不足は一層深刻で、オイルショック時以来となる電気事業法27条による強制的な電力使用制限令が発動される可能性が高まっています。まさに「電力喪失」社会です。

 それは、生産、物流、消費のあらゆる面で、日本経済に深刻な打撃を与えかねません。たとえば半導体製造業は、仮に30%の電力供給が絞られると、生産が50%落ち込むと言われています。

 第一章では、製造業、小売業を中心に、企業の混乱と苦悩、打開策を描きます。
電力不足といっても、それはピーク時―夏場は昼間―に限った問題です。需要のタイミングを分散させるには、価格メカニズムの導入が必要であることを、多くの経済学者が提言しています。ここでは、政策研究大学院大学の田中誠准教授のデザインを紹介します。

 第二章では、「東京電力の大罪」と題し、その経営問題に切り込みます。福島第一原子力発電所の事故の拡大に過失はなかったか。その過失は、政官との癒着の構造のなかで、活力を失ったことに起因していないか――。東電幹部の自民党への個人献金リストがその答えの1つです。

 事故の収束の目処が立たぬなか、永田町から「東電を国有化すべし」との声が漏れ始めました。本誌では、減収、廃炉費用計上、燃料費上昇などのインパクトを試算しました。最も深刻なのは事故補償です。霞ヶ関には、政府と東電の補償分担を巡る駆け引きがすでに始まっています。いずれ電気料金や税金への転嫁によって、私たちにも負担が強いられることになるでしょう。

 私たちは、資源貧国の頼みの綱であった原子力発電の信頼をも喪失しました。第三章では、新潟・柏崎、佐賀・玄海などの原発を抱える地域を取材し、エネルギー政策転換の可能性を追いました。日米ともに太陽光など新エネルギーのコスト比較を行なっていますが、試算の前提次第で結果が大きく異なっています。

 いずれにせよ、エネルギーコストは上昇します。産業構造の転換の必要性は、これまで以上に、企業に、そして政策に求められています。変化を急がなくてはなりません。その一心で、本特集を作りました。

(『週刊ダイヤモンド』副編集長 遠藤典子)